第19話 ラヴィ(4)

 「いつも姿を隠してるってこと?」

 「さあ……」

 「でも、だったら、あの盗賊団はどうやって動いてるわけよ?」

 世のなかには、姿を見せないからかえってありがたがられるような仕事もある。

 たとえば、いまは滅びたエジル大公たいこう国の大公は、庶民の前にはめったに姿を現さないことでその威厳いげんを保っていた。

 でも、たとえば傭兵局の局長などという仕事はそれでは務まらない。小さい仕事はともかく、戦いともなれば、その場にいて、その場に応じて傭兵たちに的確な指示を出しつづけなければ、傭兵たちは全滅してしまう。

 盗賊団の首領ならばなおさらそうだろう。盗賊はその「仕事」に命がかかっているし、下についていても稼がせてくれないなら、その首領は見放される。

 昨日だってバンキット局長は自分で指揮をとっていた。そしてバンキットの指揮がまずくて傭兵たちには大きな損害が出た。バンキットがそれでも傭兵局長のままいられるのは、仕事が傭兵だからだ。局長の指図がまずくてもとりあえず傭兵の給料は出る。たぶん傷や火傷やけどの治療代も出るだろう。

 でも、もし盗賊の首領があんなぶざまなところをさらしたら、たちまち部下に見限られる。ましてその盗みの場に自分がいないなんてまずあり得ない。

 少女は、しばらくきゅっと唇を結んでいたが、やがて、答えた。

 「ポルカーっていう男がいてね、それが、ヴァーリー様はこう言っておられる、というようなことばをみんなに伝えるんだ」

 「じゃ、そのポルカーっていうのが、蒼蛇あおへびのヴァーリーの正体?」

 「だれもそんなことは信じてないよ」

 投げやりな言いかたで少女はいう。

 「腕は立つかも知れないけど、まだ若いし、薄情だし。あれじゃだれもついて行かないと思う」

 「つまり」

 カスティリナはしばらく考える。

 「そのポルカーに知恵をつけてるだれかは、必ずいるはずだ、ってことだね?」

 「そうだと思う」

 まだよくわからないところはあった。でも、カスティリナは別のことをきいてみることにした。

 「いま、その蒼蛇の盗賊団はどこにいるか、わかる?」

 「たぶんばらばらになってるんじゃないかな?」

 少女は顔を上げて言った。

 「盗賊団にいないときには、みんな、ふだんは商売人とか職人とか、普通に暮らしてるんじゃないかな。もちろん根城ねじろとか隠れ家とかはあって、何人かはいつもそこにいる。わたしもずっとそういう場所にいた。でも、ほかは何かあるときだけ集まるんだと思うけど」

 それならあのベニー法務官が見せてくれた内通の手紙とも一致する。

 あの手紙には「これまでの例によれば、集合後散会、夜半前に再集合」と書いてあった。

 集まって何かを決めたら、またばらばらになるのが「例」、つまりいつものやり方だ、というわけだろう。

 少女は続ける。

 「でも、あそこ以外にも隠れ家はあるはずだよ。とくに、さ」

 少女は眉をひそめてカスティリナを見た。

 「あの人たちが「山」って呼んでる場所がある。それがどこなのか、わたしは知らないけど。もしかすると、そこに集まってるのかも」

 「「山」ね」

 たいした手がかりにはならないかも知れないが、覚えておくことにした。

 「で、蒼蛇の次の狙いは?」

 「さあ……」

 少女は軽く首を振って目を伏せた。

 カスティリナはもう少し手の内を明かしてみる。

 「わたしたちのほうでは、もうこの一帯は危ないから仕事をしないだろうって話もあれば、いちど失敗したダンツィクをまた襲うだろうって話もある」

 「ダンツィク、って、きいたことあるな」

 少女は他人ごとのように言った。

 いや、他人ごとなのだろう。ずっと閉じこめられて過ごしていた少女は、ダンツィクという大きい店があることも知らないのかも知れない。

 この話は少女からきいてもしかたがなさそうだ。

 「じゃあ」

 カスティリナは、少女には答えにくいだろうと思ったことをきくことにした。

 「あんたは、どうしてあそこでああやって吊り下げられていたわけ?」

 果たして、少女は目を伏せて、うつむいて首を振った。

 わからない、ということだろうか。

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