第18話 ラヴィ(3)
「わたしは、街の、川に近いところで、商家の娘として生まれた」
この街でただ「川」というと大河ネリア川のことだ。この少女はその川沿いの商家に生まれた、ということだろう。
「わたしがまだ小さかったころ、あの
「ああ」
だとすると、この子が生まれたというその店はまだあるのだろうか、それとも、蒼蛇に襲われて全滅したのだろうか。
わからない。
蒼蛇の一味は、やり口は派手だが、むだな殺しはやらないし、かさばらないものだけ盗むとさっさと逃げるという盗賊として知られている。けれども顔を見られたらその相手は必ず殺すという。だから、蒼蛇に襲われてもだれの命にも別条のなかった店もあれば、そこにいた者がみんな殺されて火までかけられた店もある。
しかも、最近の蒼蛇は派手な盗みも多くて、そのぶん、殺されたとか火をかけられたとかいう例が多いらしい。
でも、そういう荒っぽいやり方はもともとの蒼蛇のやり方とは違う。別の盗賊団が蒼蛇の名を
よくわからない。
この子はたぶん盗賊の顔を見たのでさらわれたのだろう。では、家の人たちはどうだったのだろうか?
でも、それはあとで調べてみればわかる。
ここは法務府の分局だから、そういう書類は揃っているはずだ。
それよりも、いま、きいておきたいことをきくことにした。
「ね」
カスティリナが上目づかいで少女を見る。
「その蒼蛇って、どんなやつ?」
答えてくれないかも知れないと思ったが、少女はカスティリナの顔を見てまばたきをした。
もう笑ってはいない。
「蒼蛇のヴァーリー?」
「うん」
それから、また口もとを緩める。
どういうつもりだろう?
「みんな、その蒼蛇っていうのがいると思ってるんだよね」
「はい?」
わけがわからない。
「だって、あんた、いま、蒼蛇の一党とか、蒼蛇の手下とか言ってたじゃない?」
「うん」
いたずらっぽく、少女は笑いを浮かべ続ける。
「手下はいる。もちろん、蒼蛇の一味、一党? 一団。そういうのもいる。でも、蒼蛇のヴァーリーっていう盗賊を見た、なんていうのは、その一党にはいないはずだよ、たぶん。見た、っていう人がいたとしても、それは昔の話」
「どういうこと?」
蒼蛇の一味は姿を見た相手は必ず殺す、という話を思い出す。
手下の前にさえ姿を現さないくらいに、その蒼蛇のヴァーリーは用心深いのだろうか。
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