第17話 ラヴィ(2)

 カスティリナも向かいの椅子に腰かけた。

 少女は髪をいじるのをやめ、カスティリナに上目づかいで人なつこそうな笑顔を向ける。

 カスティリナが言う。

 「しゃべれるようになったんだ」

 「あ、ああ」

 少女はあいまいに笑う。

 「昨日は、ごめんね。助けてもらったのに、お礼も言わなくて。あんなことになるとは思わなかったから」

 「あんなことになる」とは、どういう意味だろう?

 それをきくのは後回しにする。

 「でも、あんた、ずっと、ありがとう、って言おうとしてたよね」

 少女は顔を上げ、首を振った。髪が長いからか、大きく振っているわけではないのに、その首を振る動作が目立つ。

 「覚えてない」

 そうか。覚えていないのか。

 少女はくすっと笑う。

 おびえた感じは消えないけれど、最初よりは構えたところがなくなってきた。

 「あんた、傭兵さんだよね」

 「あ。うん」

 「なんで、あそこが盗賊団のだってわかったの?」

 それは言っていいことだろうか?

 もし、この子の身柄があの盗賊団に奪い返されるようなことになれば、この子の口から盗賊団の内部に裏切り者がいるということが伝わってしまうだろう。

 蒼蛇あおへびの盗賊団はこの子をはりからつるすような残酷なことを平気でやるし、そんな目にったときこらえきれるほど強い子ではなさそうだ。

 だが、カスティリナは話すことにした。あとで局長やベニー法務官に怒られるかも知れないが、かまわない。

 「だれかが手紙で知らせてくれた。それがだれかはわからない」

 少女は唇を閉じたまま鼻からふっと息を漏らした。

 まぶたを閉じて、息を吸い、ゆっくりと吐いてから顔を上げる。

 何か穏やかそうな笑いを浮かべている。

 「そこまで話したから、わたしにも話せ、ってことだよね?」

 この子はいい勘をしている。

 そこまではっきり考えたわけではないが、こちらがそのことを話す以上、少女にも少しでも盗賊団の話をしてほしい、とは思った。

 「まあ、いやでなければね」

 「ふふん」

 少女は小さく笑った。

 「昨日からここに来た人、法務官や法務士や書記の人たち、みんなそれをききたかったはずなのに、みんなそれを避けてたんだよね。それはよくわかった」

 笑ったまま、少女はカスティリナにきく。

 「ね、あんたはわたしがあの盗賊団の一味だと思う?」

 「言いかたによるよね」

 カスティリナも前かがみになってまっすぐ少女の顔を見る。

 「ずっと盗賊団といっしょにいたらしい、っていうのを、一味だ、っていうなら、たぶんそう。最近になってどこかからさらわれてきた、ってわけではないと思う。でも、いっしょに盗賊をやっていたか、っていうと、それは違うと思う。それで、どう?」

 少女は笑いを消さない。

 「そうだね」

 それで、目を伏せてから、話し始めた。

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