第15話 傭兵仲間(3)

 笑ったのが悪いと思ったのか、とりなすようにタンメリーが言う。

 「だからさ、わたしたち、だれが出て、入って、ってぜんぶお帳面ちょうめんみたいなのにつけて、ベニーさんに出してるから。わたしたちは知らされてないけど、あとをつけて行き先を突き止めたり、って係もいたはずだよ。その帳面はぜんぶベニーさんのところに集めてあるはずだから、行けば見せてくれるんじゃないかな。カスティリナなら」

 「カスティリナなら」というのは、盗賊と戦うことになったら一線に出る傭兵だから、ということだろう。

 ベニー法務官は、見張りのだれかが賊に見つかったときのことを考えて、見張りどうしでもだれが仲間なのかわからないようにしていたらしい。だから、見張りの一人ひとりは自分の組が見たぶんしか知らない。全員がどういう人相の人を何人見たかわかっているのは、ベニー法務官だけというわけだ。

 タンメリーが言うように、カスティリナが行けばベニー法務官はその帳面を集めた記録を見せてくれるだろう。

 深入りしないほうがいいと思う。少なくとも一傭兵にとっては知らなくていいことだ。

 でも、行けるならば、日の出がい分局にはもう一度行っておきたかった。

 あのおびえきった少女がどうなったかが気になる。あのまま気がふれてしまっていなければいいが。

 「じゃあさ」

 カスティリナは、パンの最後の一切れを口に入れ、水を流しこんで、言った。

 「ベニーさんのところに行ってきていい?」

 ジェシーもタンメリーも、自分たちから「行けば」と言った手前、それはまずいんじゃないか、とは言えないはずだ。

 「あ、いいよいいよ」

 タンメリーは軽く答えた。ジェシーも言う。

 「もし何かあったらすぐに知らせる」

 「うん。ありがとう」

 言ってカスティリナは立ち上がった。水を入れていたカップを流しまで持って行こうとすると、ジェシーが

「あ、そのままにしておいて。あと、わたしたちがやっとくから」

と言う。タンメリーも

「どうせ、わたしたち、ずっとここにいなきゃいけないから」

と言って、その黒い瞳でカスティリナを見てうなずいて見せた。

 「いなきゃいけない、って?」

 「ああ、今日はジェノン様降誕祭のパレードの衣裳合わせなんだ。だから宮殿のジェノンびょうの人が衣裳持って来るまで、ここ、出られない」

 「ああ」

 そんなお祭りがあることはすっかり忘れていた。

 ジェノン様は麦の種の神様で、冬小麦の刈り入れと夏小麦の種まきのこの時期にお祭りをやる。このインクリークでは公家こうけの人たちもパレードに加わる大きなお祭りだ。

 この二人はそのパレードに出るのだろう。

 カスティリナは衣裳合わせなんかで局で待っていなければいけないのはいやだ。命の危険があっても昨日のようなり合いの場に出ていたほうがいい。

 でも、たぶん、この二人は逆なのだろうなと思う。

 「じゃ、お願い」

 そう言い残して、カスティリナは身支度のために自分の部屋に引き上げた。

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