第14話 傭兵仲間(2)

 水とぱさぱさのパンだけで朝食にする。チーズや野菜は棚から引っぱり出せばあるはずだが、その手間をかけるほどの食欲もない。

 「ところでさ」

 その貧しい食事をしながらカスティリナは二人にきいてみた。

 「昨日、わたしが行ったあの角の家の見張りって、あんたたちでやってたの?」

 「ああ」

 二人の少女傭兵は顔を見合わせて、頷いた。

 「うん」

 「どれぐらいの人数、いた? あの連中って」

 「わたしたちが見てたのは片方の角を通って入った人数だけだけど」

 ジェシーが答えると、タンメリーが続けて、

「わたしのときには十何人ってところかな?」

 「わたしのときもおんなじくらい。もっとも、出たり入ったりしてるのもいたし、物売りとか届け物とかも含めてだけどね」

 「昼夜含めて?」

 「うん」

 「十何人かぁ」

 物売りとか届け物だからといって人数外とは限らない。物売りの格好をして目当ての建物に入り、別の人物に同じ格好をさせて出て行ってもらうというやり方は、傭兵だってよく使う。

 「それは、延べ人数で?」

 つまり、同じ人でも見た時間が違っていれば別人として数えたか、ということだ。

 「あ、いや、おんなじだと思う人は一人に数えてるけど、遠くからだから顔が見分けられないし、夜だとなおさらだし、だいいち、覚えられなくて」

 タンメリーが笑う。

 痩せていて、細やかそうで、実際によく気がつく子だ。

 ジェシーもいっしょに笑った。

 「じゃ、十何人で、一人で何回か出入りしてるのがいるとして、それと、関係ない物売りとかも含めて、だとすると、片方の角で十人、ってことは、やっぱり二十人ちょっと、ってところか」

 「うん」

とジェシーが頷く。

 「でも、あと裏口もあるから、わからないけどね。裏口はまた別の組で見張ってたはずだから」

 ジェシーは、丸顔で、小太りというほどではないが少し肉づきがよくて、けっこうなぼんやりさんだ。それでも、まじめな顔をしているときりっとしていて、いかめしく見える。ぼんやりさんなところも、そういうときには「何ごとにも動じない」という頼もしさを感じさせる。

 ジェシーが軽く身を乗り出した。

 「カスティリナってさ、やつらと戦ったんでしょ?」

 「ああ、うん。まあ、逃げられたけどね」

 このジェシーとタンメリーは殺しあいになりそうな場所には出たことがない。傭兵なので剣術は身につけているが、ほんもののやいばを交えて闘ったことはまだないはずだ。

 何かの行事があるときの警備係や、行進や行列の先導役が仕事だ。

 年端としはもいかない女の傭兵ならそちらが普通で、カスティリナのようにり合いの場に出るほうが珍しい。

 「手ごわかったってきいてるけど?」

 タンメリーが心配そうにカスティリナにきく。

 「わたしは後ろで見てただけだからよくわからないけど、まあ、そうだったね」

 といっても、実際に出てきて斬り合った賊は、気弱そうな男と夜盗やとう風の黒装束との二人だけだ。

 その二人をジェシーやタンメリーが見ていたか、たしかめて見ようと思う。

 「ね? 気弱そうで、ひょろっと痩せた男と、ちょっと背が高くて黒装束のぬすって、あんたたちが見てたなかにいた?」

 「あー」

 ジェシーとタンメリーは顔を見合わせる。

 タンメリーが言う。

 「いや、さっき言ったように遠くから見てただけだからね」

 「それに、夜は服装までわからないし、昼間に外を歩くのに黒装束って、たぶん着てないと思う」

 「やっぱりそうか」

 それはそうだな、と思う。夜盗は夜に動くから黒装束でいいわけで、昼にそんな服を着ていたらかえって目立つ。

 あの夜盗風については何もわからずじまいだ。

 ゆったりした服だったから、肥えているか痩せているかもわからない。目は見せていたと言っても、薄暗い中だったから、また同じ目もとを見ればすぐにわかる、ということもない。

 ジェシーが顔を上げて言う。

 「でも、そんなのだったら、ベニーさんにきいてみたら」

 「は?」

 カスティリナが間の抜けた声を立てたので、だろう、二人は短く笑った。

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