第13話 傭兵仲間(1)
夢は夢だと割り切ればいい。この世のできごとではないのだから。
だが、割り切ったところで、この世に残るものはある。
寝不足だ。
カスティリナは、やっぱり、暑くて苦しくて身もだえもできなくて、どうにもできないという夢を見た。それで気が遠くなればいいのだけれど、かえってますます気がさえわたる。夢のなかで目がさえて、苦しみが強くなりながらいつまでもつづく。その苦しみのなかで、やっぱり体が少しずつしびれてきて、目の前が白くなったところでやっと目が覚めた。
いつもより長めに寝たはずだが、疲れがとれていない。とれていないどころか、寝たときよりも疲れている。
「お父さん……」
父親は、死ぬ少し前には、毎晩酒を飲み、しかもたくさん飲むようになり、気難しくなってめったに笑わなくなった。
殺し屋としてたくさん人を殺し、そのことが気にかかっていたからか。
それとも、この夢が怖かったのか。
あの剣とこの夢とが関係しているとすれば、それはけっきょく同じことだ。
カスティリナは、着替えると、その剣に頭を下げて手にとり、腰に差して下に下りていく。
局には、武器はふだんは身につけず、呼び出されたら武器を部屋に取りに戻る傭兵も多い。でも、カスティリナの部屋は、一人でひと部屋もらえているかわりに二階の奥のほうなので、急ぎの時には取りに行っていると間に合わない。ほかの傭兵を待たせてしまうことになる。宝石が
下に下りていくと、同じ年頃の女の傭兵が二人いた。
ジェシーとタンメリーだ。
あの角の家の見張りをしていたというのがこの二人だ。
「局長とかサパレスとかは?」
「二人とも出て行ったよ」
ジェシーが答える。
そんな朝早くから出て行かなければいけないような仕事があるのだろうか。
夢のおかげで早く起きた。現にほかの傭兵はまだ寝ているというのに。
「馬車が迎えに来てたから、遠出じゃないかな? サパレスとかすごく不満そうにむすっとして出て行ったけど」
タンメリーも言う。
カスティリナは軽く笑った。気もちがほぐれる。
「わざわざ不満そうって言うくらいだから、よっぽど不機嫌だったんだね」
「うん、それはもう、ほんっとに」
ジェシーがおもしろそうに言う。ジェシーとタンメリーが二人で笑ったので、カスティリナもパンを取り、笑ってタンメリーの隣に腰を下ろした。
サパレスは、歳がいちばん上かどうかは知らないけれど、ともかく局でいちばん腕の立つ傭兵だ。
腕は立つのだが、いつもいばっていて、そのうえいつも不機嫌そうにしている。ひとには聞き取れないくらいの声でぶつぶつと文句を言っていることも多い。カスティリナはとくにこのサパレスが苦手だった。
そのサパレスがとくに「不機嫌」と言われるのだから、よほどの不機嫌だったのだろう。
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