第10話 少女(3)
局長が受け止められるかどうかわからない。だが、この暗いところで縄を解いている余裕があるかどうか。しかも少女が暴れるので縄はどんどん絞まっていく。まだ賊が隠れているかも知れない。それが出てきたら少女は助けられない。
ほんとうはこんなことで抜きたくなかったけれど、カスティリナは剣を抜いた。
父譲りの宝剣「
剣の切れ味は確かだった。太い縄がするっと切れて、梁は重さを失って軽くはずむ。
「うわっ」という悲鳴がしたので、自分まで落ちないように下を
カスティリナは剣をおさめると、また壁を伝って降り、少女のかたわらまで行く。
「あっ……あり……あっ……あり……あっ……あっ……あっ……」
「ありがとう」と伝えたいのだろうか。しかし、少女は「あっ」としか声が立てられなくなっていた。
泣き声も出ない。
少女は歳はカスティリナと同じくらいのようだった。体は大柄で、背もカスティリナより少し高いようだ。
その大柄な体格のせいで、吊されたときの痛みと苦しみは普通の女の子以上だっただろう。
部屋の窓を開けて賊が潜んでいないことを確かめると、カスティリナは菓子屋に戻って手を貸してほしいと頼むことにした。
そこに、この建物の表から、部屋を一つずつ確かめながら
シルヴァス局長は街道番に少女を預け、ベニー法務官のところに先に少女を送ってもらった。
それからバンキット局長といっしょにベニー法務官の前に出頭した。法務官のお小言を頂戴し、バンキット局長が
明るい部屋で見ると、少女は背は高いが、顔つきはどちらかというと子どもっぽく、顔にはにきびが広がっていた。
泣きじゃくるか、あっ、あっと声を立てるだけで、ことばは話せない。
看護に当たっている書記生の話だと、人が近づくと大泣きして、部屋の隅に身を寄せてふるえたり、頭をかかえていきなり大声を立てたりするという。しかも、隣の部屋に人がいるだけで、その気配に気づいて騒ぎ出すので、隣室にも入れない。
最初に運びこまれたのは法務官たちの公室だったので、いつまでもその部屋にいさせるわけにはいかない。このままでは公室に置いてある書類を取りに行くこともできない。
でも、この少女は、シルヴァスとカスティリナは自分を助けてくれた人だとわかるのだろう。
近づくとぶるぶると震えるものの、大泣きしたり避けたりはしなかった。それで、シルヴァスとカスティリナが両脇を支えて、二階の奥にある客間に移した。大きい窓がある明るい部屋だった。
やわらかいベッドに座らせてやると、やっと落ちついたようで、泣きやんだ。
「あっ……あり……あっ……あっ……あり……」
やはり「ありがとう」と伝えたいのだろうけれど、ことばにはならない。
服は粗末な黒っぽい服を着せられていた。その服も薄汚れている。着替えさせたほうがいいと思うけれど、それもあとにしたほうがいいだろうと思った。
それで、魂も何も抜けきったようになったその子を座らせたまま部屋を出て、法務局を出てきたのだが。
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