第8話 少女(1)

 シルヴァス局長とカスティリナが日の出街の法務局を出たころには、初夏の長い日も暮れかかっていた。

 港に近い日の出がいからシルヴァス傭兵局までは坂を上って行かなければいけない。夕日に長い影を引きながら歩く局長とカスティリナの足どりが重いのは、昼間の戦いでの疲れだけが理由ではなかった。

 「あの子……」

 カスティリナが先に口を開いた。

 「ああ」

 局長も重苦しくうなずく。

 「あの子」とは言ってみたものの、その先をどう続けていいかわからない。

 「ずっと泣きじゃくってましたね」

 「ああ……」

 局長はそう言ってから

「まあ、しかたないだろう、と言っても、おまえは怒らないよな」

 「ああ、まあ」

 そして、また黙る。

 二人ともしっかりした靴を履いているので、石畳いしだたみで足音が響く。

 このあたりは店がたくさん並んでいる通りではないので、この夕飯前の時間でも人出はそれほど多くない。

 通りにもう少し人がたくさんいれば気も紛れるのに、と思う。

 あの子、というのは、あの菓子屋の主人の男に声をかけられて乗り込んだ盗賊の根城ねじろで見つけた少女だ。

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