第26話 魔王は魔王を自覚する
「そもそも、俺が強い力を持った魔王と疑われたのは、この身体の中にある、強大な魔力のせいだ」
勇者たちの言葉が嘘でないとするならば、その量は異常だという。
ついでに禍々しいみたいなことを言われた覚えもある。
「俺は当然、そんな恐ろしいものを持って生まれた覚えはない。ならばこの魔力は一体何なのだろうか」
魔力というのは力だ。
物理的に考えれば、放っておいても自然と集まるものではない。
空気中に漂っているものは、誰かが集めようとしない限りバラバラに浮かんだままだである。
そう、誰かが集めない限りは。
「手掛かりになったのは、部屋の隅にある魔法陣だった」
部屋の隅に描かれた複雑な模様。
賢者の説明によれば、時間を巻き戻す魔法の発動に使われるらしい。
だが問題は、その魔法陣の効果ではない。コストだ。
「あの魔法陣を発動するには、俺の中にある結構な量の魔力が必要、そうだよな?」
一応賢者に確認するが、間違うはずない。
彼女が自らの口で説明していたことを覚えているからな。
彼女は否定することなく俺を見つめている。
「……反論がないということは、会っているんだよな?」
彼女に見つめられ続けると、自信が薄らいでいくが、ここで負けてはいけない。
俺は説明を続けた。
「ここで重要なのは、この魔法陣がいつ作られたかだ。つまり、俺の魔力を使うことを想定した魔法陣が、一体いつ描かれたのか」
「貴方は知っているというのかしら」
「推測でしかないけどさ。まず、俺がここに召喚されるより前にあった。それは間違いないだろう。俺は最初に勇者に一瞬で殺されたけれど、その数秒間であの模様を描くのは不可能だからな。そしてもう一つのポイント、それは賢者が魔法陣を描くことはできなかった、ということだ」
もし彼女がこの部屋にずっと住み着いていたということなら、話は別だろう。
けれど彼女は賢者、勇者パーティーの一員だ。
勇者たちと一緒にこの部屋へ入ったに違いない。
そして、俺が召喚されるような「何か」が起こった。
今の俺には皆目見当もつかないが、ともかく不思議なことが起こり、俺が呼び出される原因となった。そうでもなければ、俺の魔力や死に戻りについて、賢者が知らないはずはない。
けれども彼女には、こんなややこしい状況を作るメリットなんてない。
彼女たちの目的は、魔王討伐。
だったら俺に自害させなければ終わらない世界を作るより、俺の首を魔王の頭として回収する方が遥かに楽である。
にも関わらず、彼女は時間を巻き戻す羽目になってしまった。
これは、予想外のことだったのだろう。
つまり俺が、強大な魔力を持った一般人がいるなんて想像もできなかったに違いないのである。
さもなくば、強大な魔力を使う魔法を使おうとするはずはない。
仮に魔王の魔力を使おうとして魔法陣を描いたとしよう。
けれど、彼女が言っていた通り、魔力は相手が死なないと溢れ出さない。
まさか魔王を倒した後に、時間を巻き戻す魔法を発動させることはないだろう。
つまり結論は一つ。
「答えは、最初からだ」
というか……
「この魔法陣を描いたのは、魔王なんじゃないかな」
□□□
「俺以外に強大な魔力を使う魔法を試そうとするのは、同じくらいの魔力量が必要なはず。……そんな人、魔王しか考えるつかないだろ?」
勇者が話てくれた魔王伝説。
確か内容は、魔王は世界最高峰の魔術使いで凄かったという感じだった。
そして勇者の第一声。
……魔王、貴様を倒す!!……
これから考えられることは、本来魔王がこの部屋にいるはずだということ。
そこまでの情報がバレているとして、俺が魔王だったら、きっと罠をはって待ち伏せる。
いやこの世界でトップレベルの魔術使いだ、逆に返り討ちにすることもできるだろう。
チート紛いの魔法を一つや二つ仕込むかもしれない。
例えば……自分が死にかけると、時間が巻き戻されるようにする、とか。
「そういう事なんだろ?この死に戻りは、魔王にとっての秘策だった。それが俺という存在に寄って、おかしな方向へ捻じ曲がったんだ」
「ええ、そう。そもそも魔王でなくとも、魔法が使える人なら誰でも、魔力があれば時間を巻き戻せたの。そして魔力を使用した者は、記憶を持ったまま同じ時を繰り返す……本当に大した魔法だわ」
彼女は、俺の仮説を肯定した。
「魔法陣というのはね、本来必要な儀式を呪文で表現したもの。だから、仕組みが分かれば貴方でも使えるのよ」
「逆に言えば、この魔法陣がないと魔法は使えない。それで、勇者たちから隠していたんだな。彼らがその魔法陣に傷をつければ、時間を巻き戻せなくなる」
「ええ、だから勇者が偶然アレを見つけたときには驚いたわ。何とか破壊は防げたから良かったのだけれどね」
「じゃあやっぱり、解読するとか話していたのは、嘘だったのか」
「半分は本当よ。この模様は複雑だったから、完全に解析できずにいたのですから」
そうして彼女は少しだけ悔しがる素振りを見せた。
「私ともあろうものが、解けない謎に当たるなんて。それは貴方に比べたらましでしょうけれどもね」
「いやいや。君が俺の仮説を保証してくれたことで、また一つ、確証を持った答えを出せるよ」
「あら、何かしら」
「俺が、魔王だって事だ」
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