第23話 戦士は魔王に熱望する
「「魔王、お前を倒す!!」
………な、何だとっ!?」
今回は、勇者と台詞を被せてみた。
いきなり攻撃されるのを防ぐためなのだが、予想以上に驚いてくれたようだ。
「不思議なことはないさ。勇者が魔王に言うことなんて、何度も聞いたようなありきたりな台詞だけだろ?」
「ならば……次の台詞も想像がついているのだな!!」
「ああ、もちろん。けれど、それを言うのは少し待って欲しい」
「どうしてだッ!? ……まさか怖気づいたんじゃないだろうな!!ここまで来て、お前のした数々の所業、忘れたと……!!」
「いや違うさ。むしろ逆だ。お前らが俺を狙う理由をよく知っているからこそ、お前たちに相応しい戦い方をしたいんだ」
「……相応しい戦い方だと?」
「魔王という悪の根源と、勇者という正義の味方。それはまさしく世紀の大決戦だ。ならばその戦いには只の倒す方も倒される方も、互いの全力を持ってして、公正な条件下で完全なる決着を手に入れる、そうあるべきだろ?」
「………完全なる決着、だと?」
俺の言葉に、戦士が反応する。
「……つまり、貴様が求めているのは、ルールに則った決闘ということか」
「流石ここまで辿り着いたことだけはある、正解だ」
□□□
俺は何度も殺され、その度に蘇る。
本来なら勇者と会った瞬間に惨殺される俺も、数回死んだ後には、彼らと話す余裕を見せることができた。
そして、俺はこの部屋から脱出するために努力し、何度も同じ時を繰り返していた。
その甲斐あってか、最初は無限に続くと思っていたこのデススパイラルも、謎が紐解かれていき、俺はもう少しで死なずに済む、そう希望を持っていた。
……けれどもそんな都合の良い話、ある訳がなかった。
死に戻りというのは、体験している側からすれば地獄だが、第三者からすれば只のチートだ。
いつか終わる日が来る。
俺に死に戻りをさせる賢者から、俺が死に戻れるのは残り4回と宣言された。
それが俺の最期の時。
既に二回死んだ俺は、チャンスがたったの二回。
その中で、俺は全ての謎を解決しなければならない。
すべきことは、それはもう分かっている。けれども、どうしても焦りを感じてしまう。
もし、謎を解けないまま俺が蘇ったとき、賢者によって俺は自ら命を絶つよう強制されてしまうらしい。
おそらくそれが、俺の本当の最期。
何度も死んでしまうことで、永遠の「死」が俺に近づいてくる。
死にながら、死を恐れる。
ふざけた状況だが、呆れている暇はない。
俺は考え続け、行動し続けなければならないのだ。
そして、俺はもう一度、死ぬ覚悟をしなければならない。
「戦士、貴様と一対一で勝負がしたい」
彼との対決、それは例え結末を知っていたとしても、避けて通ることはできない。
俺がすべきこと、それは彼と心から向き合うことだ。
「……何故だ」
戦士からの問い。
その意味は、どうして勇者ではなく戦士が指名されたのか、ということだろう。
世紀の大決戦と言っておきながら、光の象徴である勇者とは戦わないとは、確かに奇妙に感じる。
俺は彼らに納得する答えを出さなければならなかった。
当然、後付けの理由は考えてある。
「確かに、本来なら俺と勇者で勝負するのが普通だろう。だが、それは二の次だ」
「……二の次、だと?」
「ああ、俺と勇者はここにいる限り、いずれ戦う羽目になる。間違いなくだ。そうしていつか勝敗が決まるだろう。
……だが、それでは納得しないものが1人いる。戦士、お前だ」
「納得できない……どういう意味だ」
さて、ここから俺の思考は回り出す。
「それはお前が分かっているだろう。何せ、勇者パーティーの中で、一番俺を殺したいと思っているんだからな」
そう、それが答え。
戦士こそが、俺を誰よりも憎んでいる。
故に俺は、彼と決着をつける必要があった。
勇者が戦う理由、それは俺への憎しみもあるかもしれないが、根本にあるのは正義感だ。
悪逆を嫌い、その大元である俺を倒そうとする勇者。だからだろう、彼は曲がったことが許せない。
いつかのループで、俺が戦意を喪失したまま仰向けになっていたとき、彼は俺に対して喝を入れた。
本来なら敵に塩を送るような行為であり、敵を倒す者としては誤った態度だろう。
けれども、勇者の目的は、俺を倒すことではない。
真の目的は、勇者の信じた正義の道を真っ直ぐに貫き通すということだ。
だからこそ、かつてのループでは俺の決闘を受け入れ、降伏を認めることをしたのだろう。
毎回俺に、魔王を倒す!! とか言いながら飛び掛かってくるのもそのためだ。
あくまで騎士道を貫くが、試合相手ではなく、ただの敵と認識した相手には容赦ない。
自分の正義を守るためには、最短時間で目標を達成できる戦法なのだろう。
反対に、一度会話をした相手に対しては、相手の主張を理解した上でどうするかを判断する。
よくある王道主人公のパターンだ。
モブキャラを次々と倒し、幹部やら個性の強いキャラとは駆け引きをしながら、時には協力し、見逃し、ライバルなどと呼びながら物語を有利に進めていく。
勇者はその王道に沿った動きを、正義の名の下に行っているにすぎない。
故に、俺を憎いから殺すのではなく、正義のために殺すのだ。
そして前回のループでは、金髪射手の戦う理由もハッキリとした。
自分の信じる勇者のために戦う。
まさにヒロインの鏡であるかのような言い回しだ。
もちろん、俺が憎いという理由が完全に存在しない、という訳ではない。
魔王の非道な行動に、怒りを覚えることはあるはずだ。
けれども戦う理由として、彼女は俺に確かに「勇者のため」と断言した。
「悪を倒すため」なんて理由よりも遥かに、人間らしい理由だった。
そう、彼女は俺が何者であれ、勇者の敵だから倒そうとしてきたのだ。
ならば、戦士はどうか。
そのヒントは多くあった。
『魔封じの手枷』もその一つ。
俺が降伏したことを示す為に、戦士が提案した拘束方法だ。
けれど、考えてみるとおかしい。
勇者たちの目的は、『魔王の首を持ち帰る』ことだ。
これは後になってから戦士が言っていた。
そして俺が手枷をしたのは、俺が魔王として降伏した時だった。
つまり、俺を捉える必要はない。
にも関わらず、俺に魔力を封印させた。
勇者は正義の道を突き進んでいるとしても、戦士はその限りではないはずなのにだ。
現に、俺が魔王の部下を演じていたときも、彼は最後まで疑い、拷問に掛けようとした。
ならば、俺を捕らえてどうするつもりだったのか。
考えられることは、もちろん拷問だろう。
そう、彼は常に一番に俺を生け捕りする案を提示し、拷問するように促していたのだ。
明らかに必要のないことしてまで、俺に痛みを感じさせたかったのだ。
この理由が屁理屈だと言うのなら、もう一つの理由がある。
それは俺が、感情のままに賢者に飛びかかり、戦士に斬られたループのことだ。
俺の目の前には、勇者ら四人がいた。
そして俺の攻撃は、賢者に向いていた。当然、誰かが止めるべきである。
あの時は俺の動きに対し、まず勇者が反応できずにいた。
一番前で剣を突きつけているのだから、俺の動きに一番速く反応できたはずなのに、である。
そして、圧倒的な弓の腕を持った射手。
俺は彼女に二度殺されたが、どれも素晴らしい射撃だった、だがあの時は矢を打つことができなかった。
賢者がどうかは知らないが、少なくとも四人の中で、戦士が一番速く反応していた。
真正面にいた勇者より、音速の矢を放つ射手よりも速くである、
つまり、一番俺を警戒していたということだ。
……とかまあ、理由なんて適当に思いつくが、それよりも。
俺が一番に戦士が俺を憎んでいると思った理由。
それは
「お前が、何かを言おうとするとき、決まって少し間を置いてから話し出す。それは、お前が感情を抑えて話そうとしているからだ……
……メガネ越しからでも分かっちまうくらい、お前の目は俺を怒りのままに睨みつけてんだよ」
「……クソが」
戦士は舌打ちをした。
平然を装っていた顔が、みるみるうちに豹変していく。
「……ああ、僕は貴方が、魔王が………!!
……憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて……殴ったくらいじゃ収まらない、刺したくらいじゃなくせない、蹴ったぐらいじゃ終われない、殺したくらいじゃ抑えきれない、死なせたくらいじゃ満足できない、犯したくらいじゃ物足りない、壊したくらいじゃ納得できない、消し飛ばしたくらいじゃ吹き飛ばせない、絶望的で絶大的で最悪的で最恐的で残虐的で残忍的で悲劇的で非情的で圧倒的で圧巻的で絶対的な苦痛を与えたいと思っているからねっ!!!」
まくし立てるように怒号を吐くと、戦士は掛けていたメガネを握り潰した。
荒い息を上げ、俺をギロリと睨み付ける。
その瞳は真っ赤に染まっていた。
「貴方との決闘、是非お願いしようか………!!!!!!」
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