第12話 戦士は鼓動を知っている
今まで一人で苦しんでた。
誰も俺のことを覚えていなかった。
唯一可能性のあった少女は、俺を何度も殺しにきた。
このまま最後まで、一人で戦い続けるのだと思っていた。
そして、俺は知った。
信じられることの素晴らしさを。
「お前が信じるまで何度でも言おうッl!俺が、必ずお前を助けるッ!!」
俺の目の前には、希望の光が広がっていた。
「この剣は、相手から魔力を吸い取ることが出来るんだがな。俺が信頼できると思った相手にしか使えないという欠点がある。しかも、魔力を無理矢理奪うことで、激痛を生むんだ」
どうやら、勇者が俺に状況を説明してくれているらしい。
今、何故か俺の身体に剣が突き刺さっている。
何故か出血もなく痛みもないが、身体は全く動かない。
俺には全く理解できないが、どうやらこれが聖剣の能力らしい。
「だから一旦、お前の生命に差し支えない程度まで、感覚を麻痺させている。しばらくは動けないぞ」
そう聞くと色々と予測ができる。
例えば、俺が斬られても死ななかった理由。
ゲームでよくある、ダメージは少ないが、敵に毒や麻痺などの状態異常を引き起こすアイテム。
それがあの聖剣なのだ。そう言うのは大概、ダメージをほぼ与えられない。
俺に使った魔法もそういう効果なのだろう。
または、俺の身体が死んだ訳でもないのに動かない理由。
勇者に剣で刺されたのに、痛みも血もほぼない理由。
どちらも感覚が麻痺したから、と言えば許されそうだ。
人体に詳しくないので分からないが、あながち外れでもないだろう。
そう思っている最中も、血管という血管に乗って身体から何かが大量に抜け出していく。
これが魔力なのだろうか。質問したいが、口が動かせない。
俺が口を開くのに悪戦苦闘していると、金髪ちゃんの声が聞こえた。
「ちょっと、勇者。急にどうしたの!?」
金髪ちゃんが驚いている。当然だ。
今まで敵と思っていた魔王を、勇者が助けるとか言っているのだ。
普通なら気が狂ったのかと思う。
けれども勇者の声には、正常な、むしろ強い意志を感じる。
「射手、俺たちはどうやら、厄介なことに巻き込まれているらしい。今までは、ココにいる魔王を倒せば良いと思っていたが……それだけじゃない。事態は複雑みたいだ」
「どうして……それが分かるの?」
「お前も聞いただろう、コイツの叫びを!!俺は、今の叫びを演技だとも思わなければ、本当とも思えない。何せ、魔王だからな。けれども、目の前にいる俺は、コイツの全身から一つの思いが伝わってきた。
……助けてくれ、っていう思いがな」
俺は、その言葉に涙が出そうになる。
身体を少しも動かせないので、誤魔化すこともできない。
俺の気持ちが、初めて届いた。
さっきの大声のせいで、赤くクシャクシャになった顔。
そこにツーッと一筋、溜まっていた涙が溢れ出す。
向こうの方から、金髪ちゃんの溜息が聞こえる。
そういって、ヤレヤレとした、それでいて何か納得したような声で話す。
「……勇者がそう言うなら、仕方ないわね。アンタの勘って、いつも当たっちゃうんだもん」
「ああ、そして俺が間違っていれば、お前が正してくれる。お前は俺の親愛するパートナーだ」
ボンっと何かが茹で上がったような音がした。
「パ、パートナーッ!!?そ、そんな、私たち、まだそこまでの関係じゃないって言うか……けど勇者が良いっていうなら……」
金髪ちゃんは何故か急に慌てだし、ボソボソと独り言を言いだした。
目が開かないのでよく分からないが、彼女は納得したようだ。
すると今度はメガネくんが声を出す。
「……それで勇者、その剣で魔王の魔力を全て吸い取れるのか?」
「……どうしてだ?」
「いくら聖剣と言えど、ここまで感じる程に強大で邪悪な魔力だ。もしも限界値を越えれば、最悪その聖剣が壊れる可能性がある。一応「魔封じの手枷」もあるのだろう?奪う量はそこそこにしておいた方が良いだろうよ」
「いや、やれるだけやってみる」
勇者はすぐに否定した。
「コイツの魔力、聖剣を通じてみると、妙な感じなんだ。まるで、こう……本人のモノだけど本人のモノじゃないみたいな……」
「……どういうことだ?」
「俺にも上手く説明できないさ。けど、この奇妙な感覚、もしかしたら呪いの類かもしれない。中途半端に残すと、返って危険になる。吸い切れるところまでやってみるしかないんだ」
「……なるほど。お前の言った、この件は複雑だ、ということ……やはり合っていたということだな。それに……」
彼は一つ間を置く。
「今感じたが、ソイツの魔力が薄まるの連れて……心臓の鼓動がする。それも、人間と同じようなリズムのな」
心臓のリズム……え、聞こえるの?
一体、彼の聴力はどうなっているのだ。
俺から彼まで、少なくとも10メートル以上はあるのだが。
「人間……確か魔王の種族では、心臓を3つ持っているんだよな」
勇者が思い出したように呟く。
いや、心臓三個って。俺は牛かよ。
確かに勇者らから見ると、ツノが生えているらしいけど。
けれども、身体から魔力を抜かれていくと、変な感覚になる。
それは自分の体力がゴッソリと抜き取られるような嫌な感覚と、
身体から悪いものが抜け出ていくような浮遊感。
魔力が抜かれることで、俺の身体には確実に変化が起きていた。
そうして、もうすぐで全てがとられるというところだった。
「ハァ」
溜め息。
俺はこの溜め息を何回も聞いた。
その時は決まっていつも………
「また戻さなくちゃいけないのかしら」
絶望の始まりだった。
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