第11話 勇者の光輝が灯し出す


……RPGには剣と魔法が付きものだ。


特に剣ともなれば、凄まじい技が多い。


突きや居合切りは勿論のこと、空中一回転をしながら敵を切る技、斬撃を飛ばす技まである。

そんなことをするなら重火器を使えと言う人もいるくらい、ファンタジーにおいて剣は重宝されている。

中には剣に魔法を施すことで、海山を斬り、火や氷を出し、どんなモノも切ってしまえるなんてゲームもある。


特に「聖剣」と呼ばれるアイテムが存在するなれば、その強さは破格級だ。

聖なる加護により、絶対不可能を可能にする剣として、最早RPGではお約束の武器となっている。



そんな剣は今、俺の頭を貫いていた。


当然、俺は死ぬはずである。


けれども結果として、俺は死ななかったのだ………






痛い。


頭が痛い。

全身から力が抜けていく。


それは、死ぬ瞬間に感じるソレとは全く違った。

例えるなら逆上がりに失敗して地面に激突したとき。

泣きたいほど痛いのだが、タンコブができるだけで済む。

俺の場合は、額にコブではなく、浅い切り傷ができていた。


今の状況を確認しよう。


俺は床に仰向けで倒れている。

額から少しばかり血を流して、倒れている。


そして身体が動かない。


微かに呼吸ができる程度にしか、動けないのだ。


心臓の鼓動は、ペースが下がっているものの、一定に鳴っている。

ただし指先はピクリともできない。

仮死したまま死後硬直、に近い状態になっていた。


一体、何がどうしてこうなった?


俺は記憶を振り返る。


さっき勇者に頭を刺された。


確かに俺は、剣で刺された。


だが死に戻りをすることもなく、倒れている。



どういうことだ?


……本当に、俺は死んでない、のだろうか?

生きてるよな?合ってるよな?



思えば最後に見た勇者の剣、黄色く輝いており、形も変化していた。

確か、勇者が「聖剣」と言っていた気がする。


今まで先手必勝だった勇者であったため、あんな風な技は初見であった。

それに何の意味は分からないが、あの光はおそらく魔法の一種だろうとは推測できる。


そうでなきゃ、無駄に光熱費のかかるような剣で戦いに挑むはずがない。

きっと攻撃力アップとか、防御力無視ダメージとかができるのだろう。

だが、今はそんな理屈はどうでも良い。


それより重大なこと、俺が助かっている理屈が説明できない。


俺に向かって激励を飛ばしていた勇者のことだ、本人なりに考えがあってのことなのだろう。

あり得るとすれば、勇者が俺を殺す振りをした、または手加減した、ということだ。


いや全く、意味が分からない。


もしかして俺の想いを感じ取ってくれたのだろうか。

だったら勇者はこれからどうするつもりなんだろう。


勇者は俺の前に立っているのが分かる。

だが、無言のままである。

それを変に思ったのか、遠くから金髪ちゃんの声がした。


「勇者!!魔王は、どうなったの!?」



「……もう、動くことはない。完全に意識を奪った」


「何だと?……止めを刺さないのか?」


メガネくんの声。


「その魔王は、殺さなければならない。それは国の決定事項だ」


「ああ、分かってるさ。魔王を倒し、その首を持って帰ること……それが俺たちの任務だ」


「分かっているなら、何故ソイツを生かしておくのだ?まさか同情が湧いたのでもあるまい」


「ええ、戦士の言う通り、早く殺すべきだわ。早く倒さないと、ソイツが何かを仕掛けてくるかも…」


「それは無い」


「なんで言い切れるのよ!?」




「俺はコイツの気持ちを信じているからだッ!!」



勇者は、叫んだ。



「……はぁ?ソイツの気持ちって何よ。もしかして、さっきの言い争いのこと?」


少し驚きながらも、金髪ちゃんは言い返す。

それに対して、顔は見えないが、勇者は頷いているようだった。


「そうだ!!俺とコイツは、目を見て本音をぶつけ合った!!そこに、嘘や誤魔化しの入る余地は無い!!」


勇者からチャキリと音がしたかと思うと、、瞼の裏からでも分かるほどの光が放たれた。

普通なら顔をしかめる所だが、身体が全く自由に動かせないため、光をそのまま受け入れるしかない。


俺が眩しさに苦悩していると、勇者の足音がコチラ近づいてきた。

そして右耳の横まで迫ったかと思うと、


俺の胸に、ズブリとした感触が走る。


痛みはない、だが身体に剣が刺さっていることは分かった

その違和感に変な気持ちになるも、取り敢えず受け入れるしかない。


(一体、勇者は何をしているんだ?)


その時、感覚が暴れ出した。

身体の中で「何か」が暴発し、剣に向かって流れていく。


(何なんだ!?)


俺が必死に声を出そうとすると、先に勇者が口を開いた。


「この聖剣には特殊な能力が幾つかあってな。全部は説明できないが、俺がこの剣と心を合わせることで、不可能を可能にできると思ってくれ。そして、俺と気持ちの通じ合った者にも、その能力を使うことができる……」


俺の「何か」が蠢いている間、彼は説明を続ける。


「……つまり、お前に対してこの聖剣の能力を使った」


「そして効果により、…………お前の魔力を削り取る。一つ残らずだ」


(何だと!?)


そう叫びたいが、反応できない。



「お前に魔力がなくなったとき、もう一度貴様の覚悟を聞くとしよう」


(つまり、どういうことだ!?)


「そして話していた言葉……「助けて」の意味を教えてもらうとしよう。


……魔王、貴様何を隠しているッ!!!全て話してもらうぞッ!!!」



俺は返答することができない。

けれどもまるで理解したかのように、高らかに、勇者は宣言する。




「全てを俺に教えろ!!俺がお前を助けてやるッ!!!」





その言葉は眩く輝いて、俺の中に希望を灯した。



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