第36話 食べさせ合いたい

ドリンク片手にイオンの中を散歩して1時間が経った頃だろうか。

「幸ちゃん、お腹空いたぁ」

「そういえば、もうそんな時間か。

何食べよっか?」

「う~ん、ハンバーグ」

「珍しいね」

「えっと、看板観たら食べたくなっちゃった」

俺たちの前には、地元で有名なハンバーグ店がちょうどあった。

そういえば、最近イオンにもオープンしたんだったな。

「最近、確かに食べてなかったかも」

「じゃあ、行こう~」

俺たちは、ハンバーグ屋さんへと足を進めた。

待ち合いもまだ少なく、すぐに席に案内された。

「美咲、ライス?パン?」

「ライスかなぁ。幸ちゃんもだよね」

「まあ、ライスがやっぱり定番かな。

デミグラスか、オニオンか。どうしようかな」

「幸ちゃん、半分こにしない?」

「ああ、それもいいな。じゃあ、半分こするか」

俺たちは、呼びベルを鳴らして注文をする。

「ハンバーグセット、デミグラスとオニオン一つずつで、ライスでお願いします」

「畏まりました」

注文を聞き終わると店員はキッチンへと向かっていった。

この時間は、ランチメニューにドリンクバーが付いている。

「美咲、飲み物は?」

「アイスティーかなぁ」

「了解、ちょっと行ってくるな」

俺は、席を離れてドリンクバーへ向かう。

流石にここでナンパはないだろう。

してたとしたら、店員に怒られる気がする。

俺は、アイスティーとアイスコーヒー、ガムシロップ2つを持って席に戻った。

「お待たせ、じゃあアスティーとガムシロ2つな」

「えへへ、さすが幸ちゃん」

ガムシロップの事だろうな。

まあ、美咲は甘党だから。

「幸ちゃん、このあとなにしようか?」

「そうだなぁ、夕飯の買い物して帰ろうか。

そろそろよてい・・・ん、メッセージきてた」

俺は、自分のスマホの通知ランプが点滅しているのに気付いた。

が、そのタイミングで料理が運ばれてきた。

俺たちは、ハンバーグの乗った鉄板が来る前にテーブルに置かれた敷き紙の両端を両手で掴み脂の飛び跳ねに備えた。

鉄板の上で、丸々としたハンバーグがナイフにより半分で切られ鉄板へと押し付けられる。

そして、その上からソースが掛かるのでジューという音がする。

やがて、音が小さくなっていくのが分かった。

その頃には、店員はもういなくなっていた。

敷き紙から手を放しナイフとフォークを手に取って綺麗にハンバーグを切り分けていく。

それは、俺だけでなく美咲もだった。

俺は、ひと切れにしっかりソースを絡める。

「美咲、あーん」

「あ~ん、うんうん。美味しい」

とても幸せそうな笑みを浮かべる。

まあ、それだけ美味しいということだ。

ソウルフードと呼ばれるだけの事はあるな。

「幸ちゃんも、あ~ん」

「あ~ん。うん、デミグラスも美味しいな」

「でしょでしょ」

俺たちはその後もお互いに食べさせ合いをしながらハンバーグを食べた。

なんだか、周りの視線が痛い気がしたが気にしない。

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