第29話 GW 策謀

遊園地へ行った日から数日が経った。

GWもあと数日で終わる。

そして、今日は引っ越しの日だ。

僕の今日の予定は、こうだ。

僕と美咲で、璃空を迎えに行く。

この時の口実は、うちに遊びに来いと言ってだ。

一応、これに関しては先に伝えてあるので神藏大社にいけばいいだけの事。

それで、僕らは璃空を連れてくればそれで問題はない。

さて、そのあとだが僕らの後を璃空の荷物が追ってやって来る。

璃空の荷物に関しては、両親がすでに準備をしているだろう。

なので、僕らはなるべく時間をかけて自宅へ戻ればいい。

璃空には悪いがドライブに付き合ってもらおう。

ただし、僕らは平常運転で行かせてもらう。

あの遊園地の日から僕らの距離は、近くなった。

お互いにもう遠慮をすることはない。

まあ、節度は守るけどさ。

「美咲、悪いんだけど僕そんなに演技とか得意じゃないから」

「うん、幸ちゃんが苦手なの知ってるから私がしっかりフォローするよ。任せて、旦那様」

美咲が、笑顔を浮かべる。

可愛いんだけど、なんだからちょっと不安になる笑顔なんだけど。

何考えてるのかなぁ。

「幸ちゃん、とりあえず璃空君を乗せたらお昼行こうよ」

「おお、それはいい考えだね。それで、1時間は稼げるな」

「もう、それじゃダメだよ。行くのは、行列のできるお店ね」

「え!」

確かにそれなら時間はつぶれるけど、璃空にそれは耐えられるだろうか。

子供に行列はダメだろう。

「美咲、僕らなら行列ができてても別に長時間並んでられるだろうけど。子供にそれは無理だ」

「え~、私行ってみたいお店あったのに!」

「それは、今度二人っきりで行こうよ」

「うん、幸ちゃんがそういうなら」

とりあえず、行列でぐずられて嫌に帰られるまずい。

あ!あえて家まで連れて行って手料理を食わせる手も。

いや、その場合引っ越し業者で気づかれるか。

「とりあえず、無難なのはファミレスかなぁ」

「好きな物食べれるって思うとそうかも」

「じゃあ、璃空を乗せたらファミレスにいこう」

僕の運転する車が神藏大社へと辿り着いた。

大社の境内には、3台の車が駐車していた。

そのうちの一台は見覚えがある。

千智の車だ。

僕は、その車の横に駐車をした。

僕らは、車から降りる。

「幸多様、美咲様。ご無沙汰しております」

巫女姿の千智さんがちょうど車から降りてきた。

「まだ、一週間しか経ってないのに久し振りなかんじがしますね」

「千智、久し振り」

「お二人共元気そうで安心しました」

千智は、変わらぬ笑顔を僕らに向けた。

彼女の乗っている車以外はなに誰も乗っていなかった。

「千智さんはこのあと「寮」に向かうんですよね」

「ええ、わたしは基本的には神楽宮家の従者ですので美来様を担当させていただきます」

「千智が、美来の面倒を見てくれるなら安心」

璃空の世代は、女の子が6人いる。

あとは、他家になるのだろう。

つまり、他の二台は別の家の送迎かな。

「ほかの二台は、他家の令嬢が?」

「はい、ただここにはありませんが実はもう1台あるのです」

「ああ、4家ですからね。ということは神楽丘(かぐらおか)は自領からの乗車ですか?」

「はい、神藏家よりも奥ばっているのであちらだけ近場に停車してます」

神藏神社を中心に。南が「神楽宮」。西が「神楽田(かぐらだ)」。東が「神楽坂」。そして、北が「神楽丘」という位置合いである。

「じゃあ、僕らはさすがに先にでることにします。このあと璃空とファミレスでお昼を食べるので」

「かしこまりました。お気遣い感謝します」

「さあ、何のことだか」

僕らは、笑い合う。

そして、僕らは神藏家へと向かうことにした。

歩き始めると、美咲が僕の左腕に腕を絡ませてくる。

最近の美咲は、手ではなく腕を絡ませるのがトレンドのようだ。

玄関の前には、璃空が待っていた。

「幸多兄ちゃん遅いよ」

「悪い悪い、ちょっと混んでたんだ」

「璃空君、私お腹すいちゃったからこのあとファミレスいかない?」

「行く行く、僕ハンバーグ食べたい」

「おう、好きなだけ食え食え」

玄関からは、親父とお袋が顔を出していた。

まあ、心配ではあるだろうな。

「じゃあ、親父。母さん。璃空と出かけてくるよ」

「お義父さん、お義母さん。いってきます」

二人で、挨拶をして璃空を連れていく。

とりあえず、関係者には「行先」は伝えられたから大丈夫だろう。

僕らは、そのあと車で神藏大社を後にした。


「美咲姉」

神藏大社の敷地を出るころ、急に璃空がしゃべりだした。

「なに?璃空君」

「なんだか、すっごく綺麗になってない?」

「えへへ、ありがとう。でも、私は幸ちゃんのお嫁さんだよ」

「え!!!ち、ちがうから。そうじゃなくて」

「お、璃空。兄ちゃんと喧嘩か?」

「もう、兄ちゃんも揶揄わないでよ」

まあ、璃空の言いたいこともわかる。

ここ数日で、美咲の見た目は随分と変わった。

少女から女性になる様を僕は間近で見てきた。

そして、毎日毎秒彼女に恋をした。

明後日から、学校が始まるけど不安で仕方がない。

言い寄る輩が増えそうで。

「幸ちゃんが守ってくれるんでしょ」

そういって、美咲が笑った。

「はぁ」と溜息を吐く。

「人の心を読むなって」

「幸ちゃんが顔に出やすいのが悪いの」

「まったく、人の気も知らずに」

「もう、それを幸ちゃんが言うの?」

「私は、昔から思ってたよ。幸ちゃんに言い寄る子がいるかもって」

よく言えば、僕らは似た者同士だ。

お互いがお互いを心配してる。

誰かに盗られないかって。

でも、心が離れないことを僕らは知ってる。

だって、左手の薬指にはしっかり誓いの指輪が嵌っているのだから。

「あのお二人さん、熱いんで冷房強くしてくれない?」

「わかった、暖房だな」

僕らは、璃空に揶揄われたので虐めとくことにした。

まあ、こいつはこいつでこの後大変なんだろけどな。

「ごめん、暖房はやめて」

やがて、車はファミレスに辿り着く。

駐車場には、見慣れた車が一台。

千智の車である。

いつの間に、抜かれたのかわからないが彼女の車が先に着いていた。

僕は、その横の駐車場に駐車した。

「よし、璃空。ご飯にしようぜ」

「うん、僕お腹空いた」

僕らが車を出ると横の車のドアが開く音がした。

「お姉ちゃん」

「美来!美来も今からご飯?」

「うん、千智さんに連れてきてもらったの」

「幸ちゃん、璃空君。美来も一緒でいいかな?」

「もちろん」

僕はそう答える。

だが、璃空の声が聞こえない。

僕は、彼のほうを向く。

璃空は、頬を赤らめていた。

ああ、一目ぼれでもしたのかな。

そういえば、まだ顔合わせはしてないのか。

同じ敷地内にいても合わないように仕組まれてたから。

「おい、璃空」

「あ、ごめん。兄ちゃん。僕もいいよ」

僕らは、ファミレスへと入っていく。

ファミレスでご飯が終われば、「寮」に向かうだけだ。

もう、神藏家には璃空の暮らせる場所はない。

全ての資材が今頃「寮」に送られているはずだから。

「あ、忘れ物した。美咲、先二人を連れて席いっといてくれ」

「じゃあ、先にいっておくね」

僕は、入るのをやめて千智のところへ行く。

彼女は、僕が来ることが分かっていたのか窓を開けて待っていた。

「千智さん」

「幸多様」

「美来ちゃん、僕たちが連れていくので先向かっちゃってください」

「幸多様ならそういうと思っておりました。でわ、お先に失礼します」

そういうと、千智はいってしまった。

僕は、ファミレスへと入っていく。

「幸ちゃん!こっち」

美咲の声が聞こえる。

僕は、彼女の声が聞こえるほうへと向かった。

「幸多お兄様」

美来ちゃんが、僕に声をかける。

「美来ちゃん、どうしたの?」

「私もお二人のお家に行きたいです」

「僕が兄ちゃんの家に行くところだって言ったら行きたいって」

「ん?いいよ。じゃあ、ご飯食べたら行こうか」

ふぅ、これで口実が繋がった。

さすが、美咲。

フォロー助かるよ。

こうして、璃空はまんまと罠にはまっていくのだった。

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