第28話 GW 遊園地2

夕方になった。

あと少ししたらナイトパレードが始まるだろう。

「美咲、ナイトパレード見る?」

「あ、見たいけど。間近でなくていいよ」

「ああ、なるほど観覧車からみたいってこと?」

「なんでわかったの?」

「大好きな美咲の考えそうなことだからわかるよ」

「もぅ」と小さな声を漏らす美咲。

僕らは、観覧車のほうへと向かう。

周りは、ナイトパレードが始まるからか席取りをしてる人がいっぱいだ。

僕らだけ、流れに逆らっている様にさえ思った。

人ごみを掻き分けながら、観覧車へと向かう。

やがて、パレードの巡回コースを抜けると人の波は少なくなり抜け出ることができた。

「美咲、大丈夫か?」

「うん、幸ちゃんが壁になってくれたから大丈夫だったよ。ありがとう」

「どういたしまして、これくらい容易いことだから」

「幸ちゃんらしいね、えへへ。私の旦那様は優しいんだぁ」

美咲の声が弾んでいる。

ちょっと恥ずかしくなる。

いや、ちょっとじゃないなだいぶ恥ずかしい。

「ねえ、幸ちゃん」

「また来ようね」

「もちろん、美咲がもうやだぁっていうくらい何度だって連れてきてやるよ。

えっと、いつか僕らの子供が生まれて大きくなったら・・・その子も連れてこような」

「うん!」

美咲が、満面な笑みととびっきりな返事をする。

ちょうど、観覧車に辿り着いた。

観覧車は空いていた。

「足元にお気をつけてください」

そうスタッフに言われ、僕は先に乗り美咲の手を取ってゴンドラに招き入れた。

僕らは、それぞれ席に着く。

対面に座っているからお互いの顔がよく見える。

「ねえ、幸ちゃん」

「どうした?」

「えっとね、さっきの子供話なんだけど・・・」

美咲は、耳まで真っ赤にしていた。

きっと、僕も同じ顔をしているんだろうと思う。

「何人くらい・・・ほしいのかなぁって」

考えたこともなかった。

確かにさっき「僕らの子供が」って自分で言ってるけどさ。

意識したことはなかったな。

「そうだなぁ、神藏ってさ。男の子が多く生まれるだろ」

「うん、そうだね。その代わりに4正家は女の子しか生まれてこないね」

「だからさ、たぶん家的には男の子がいてほしいと思うんだけどさ・・・僕は、美咲に似た女の子もいてくれたらいいなって思う」

僕は、自分の中にある答えを紐解いていく。

神藏家の一員だけど、僕らは神藏であって神藏じゃない。

お家の事なんて知らない。

僕らは、僕らであり続けたい。

それを、さらに次の子供の世代に引き継がせるのは違うと思ってる。

「えへへ、私はね。男の子も女の子もほしいなぁ。

きっと、男の子は幸ちゃんに似て優しくてかっこいい子になると思うの」

お互い、もう顔を真っ赤にしながらそんな未来の話をしていた。

未来・・・でも、そんなに遠い未来じゃない。

僕らが、高校を卒業したら始まるかもしれない未来の話だ。

そう考えると、もう1年や2年後の話なんだよな。

「私、幸ちゃんと結婚してお嫁さんにしてもらって。

でもね、大切に宝箱に入れられるのはやだよ。

だから、しっかり私を・・・そのね、愛してほしいの」

僕らは、長い間共に過ごしてきたけど恋人がする行為自体はしていない。

いやだって、わけじゃない。

まだ、高校生だからまだ早いって心でセーブをしてた。

でも、よく考えたらもう夫婦で。

大切にしているだけじゃ、ダメなんだよな。

想いだけじゃなくってしっかり美咲に寄り添っていかないと。

「ああ、そうだよね。

僕は、心のどこかでまだ高校生だから。

まだ、学生だからって否定していたのかもしれない。

でも、やっぱり求められたら・・・違うな、僕は逃げようとしてるな。

僕は、変わろうと思う。美咲を傷つけてしまうんじゃないかって。

どこかで思っていたんだと思う。

痛い思いをさせてしまうかもしれない・・・けど」

そこまで聞くと美咲が僕の唇を塞いだ。

長い長い口づけ。

もうすぐ、観覧車は真上に差し掛かる。

「ごめんね、幸ちゃん。

ほんとはね、エッチな子だって思われたくなくて言い出せなくて。

幸ちゃんに、無理させてたの知ってる。

でも、今日だけはしっかり素直に言おうって思ったの」

そして、今度は僕が美咲の唇を奪った。

再び、長い長い口づけ。

「もぅ、幸ちゃん。わたし、まだ途中だったのに」

「これからは、僕の全てで君を愛するから」

僕は、そういい終わると美咲を強く抱きしめた。

誰にも渡さないように、強く強く。

「幸ちゃん、痛いよぅ」

「ごめん、なんかブレーキ効かなくてさ」

「ううん、痛いけど。痛くないよ、幸ちゃんの愛をいっぱい感じさせて」

そうして、僕らは観覧車が下に降りるまで何度も何度も口づけを重ねた。

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