第27話 GW 遊園地1

翌朝、僕は美咲と一緒に東京に向かっていた。

朝早いというのに、美咲のテンションは相変わらず高い。

よっぽど、楽しみなようだけれどちょっと心配だ。

こんなにはしゃいで最後まで持つのだろうかと。

僕らは、開園前の遊園地へと辿り着いた。

車を駐車場に駐車して、僕らは手を繋いでチケット売り場へと向かった。

チケット売り場は、かなりの人が列をなしっていた。

GWだし、仕方ないよな。

「美咲、ごめん。連休期間だから混むのすっかり忘れてたよ」

「ううん、気にしないで。幸ちゃんとこうして遊園地に来れたのがうれしいんだから」

僕は、美咲の頭を撫でる。

すっかり、頭を撫でるのが癖になっている気がする。

まあ、璃空の頭も撫でてきたくらいだしな。

「アトラクション何かしっかり乗れれば」

そういう僕の口を彼女の人差し指が塞いだ。

「幸ちゃん、あのね。アトラクションに乗れなくてもショッピングでも、雰囲気を楽しむのでもいいの。

幸ちゃんとここに来たことに私は意味があるんだから」

僕は、とても照れくさくなった。

なぜなら、そう言った時の美咲の笑顔がとびっきり可愛いと思ったから。

それに、そんなことを言わせてしまった自分が情けなかったから。

「じゃあ、今日はアトラクションなしでパーク内ぶらぶらする?」

「うん、それでもいいよ。でも、少しだけでも乗れたら嬉しいかな」

「じゃあ、空いてて乗れそうなら乗ってみよっか」

「うん」

やがて、開園時間になり入場ゲートへ人が押し寄せていく。

チケット売り場の列も短くなっていく。

30分も経たないくらいで僕らの番が来た。

「すいません、高校生で1DAY2枚で」

「かしこまりました、2枚で一万円になります」

僕は、財布の中から一万円札を出しマネートレーへと置いた。

それと交換でパークチケットを受け取った。

今日の日付が印字されたカードだ。

「はい、美咲。じゃあ、いこうか」

「うん、幸ちゃんと遊園地楽しみ」

美咲は、腕を絡めてきた。

左肘に、彼女の温もりと柔らかさを感じた。

「ちょ、ちょっと美咲。胸当たってるんだけど」

「あ、照れてる。可愛いなぁ、幸ちゃんは」

美咲が、小さく「わざとだよ」と呟いた。

顔が熱い。彼女の顔がまともに見れない。

「もう、幸ちゃん。私たち夫婦なんだからいいでしょ」

それを言われると弱い。

僕らは、恋人同士ではもうない。

幼馴染みとして十数年そばにいて、いつからか許嫁になっていた。

そして、先月結婚までしてる。

たしかに、もう狼狽えている時期は越えている。

せめて、恋人としての時間も欲しかったとは思うけれどいつも僕にべったりだったあの頃の美咲とならすでに恋人同士だったのかもしれない。

「わかったよ、このまま行こう」

「うん、やっぱり幸ちゃんが大好き」

僕らは入場ゲートを潜り、遊園地の中へと入っていった。

遊園地に入ると大きな広場が目に飛び込んできた。

カラフルなレンガが敷き詰められたその広場は、大きな円形が描かれていて円の12か所にそれぞれにキャラクターの石碑が置かれていた。

これは、日時計である。

晴れた日はこれで時間もわかるが、その用途で使われることは少ないかもしれない。

ほとんどが待ち合わせや、写真撮影に使われる。

「美咲、写真は?」

「う~ん、ここは帰りでいいよ」

「そっか、まあここの子たちは移動しないもんな」

「うん、だから大丈夫」

僕らは、広場を抜けアーケード街に入っていく。

アーケード街は、お土産屋さんだ。

様々なグッズが置いてある。

「あ!幸ちゃん、幸ちゃん」

「どうした?」

美咲は、あるお店の前で立ち止まった。

そこには、キャラクターを模した髪飾りやカチューシャが置いてあった。

「幸ちゃん、これ付けて」

美咲に渡されたのは、黒い狐の耳が付いたカチューシャだった。

彼女に、勧められたし僕は何のためらいもなく付けた。

「これでお揃い」

といって、隠していた耳だけ美咲は出した。

ああ、なるほど。僕も付けてれば気にせず行けるってことね。

たしかに、ここならコスプレしてても誰も怪しむ事もないし。

でも、このカチューシャとじゃ本物勘が違うんじゃ。

僕は、鏡を見てみる。

すると、あまりカチューシャが作り物と思えないほどリアルに見えた。

どうしてだろう。

「美咲、これって見合ってる?」

「ほぇ、あ、うん。カッコいいよ」

「そっか、じゃあ買ってくるわ」

「いいの!」

「もちろん、美咲とお揃いだし」

僕は、レジに行きそのカチューシャを買いその場で付けれるようにタグをはずしてもらった。

美咲の元に戻ると、またすぐに僕の左腕に腕を絡ませて抱き着いてきた。

「今日はいつも以上に甘えん坊だね」

「いや?」

「いやじゃないよ、大好きな人に甘えられるなんてそんな嬉しいことはないよ。

まして、こんなに可愛い美咲に甘えてもらえるなんて」

「幸ちゃん、恥ずかしいよぅ」

美咲が、顔を真っ赤にしている。

さっき、こちらも赤面させられたのだから仕返しはしておかないとな。

まあ、言っといて僕も恥ずかしんだけどね。

僕らは、午前中は人気のアトラクションのそばまで行くがその長蛇の列を見ては乗るのを諦めてしまった。

アトラクションを待つ時間も二人なら楽しめるけど、こうやってただ散歩するだけでも楽しい。

ポップコーンやホッドドッグなどを食べ歩きしていく。

インスタ映えするという評判のお店とかもあるらしいが、あいにく僕らはその類の事はやっていない。

美咲と歩くだけで楽しい。

どこにいてもそれは変わらない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る