第26話 GW ドライブ

翌朝、僕は実家にある自室で目を覚ました。

僕の自室は、そのまま残っていた。

といっても、物があるわけではない。

和室で、箪笥と小さな机があるだけの殺風景な部屋だ。

きっと、いつかは戻ってこなければいけない場所。・・・なんだろうな。

「幸多」

親父が、僕の自室に来る。

襖を開けることもなく、廊下から声をかけてきた。

「おまえに渡すものがある」

「珍しいね、親父が僕に渡すものって」

「ふ、外で待ってるぞ。荷物も持ってこい」

そう言って、親父の気配は消えた。

なんだろう、渡すものって。

僕は、トランクを持って外へと向かう。

「あ、幸多兄ちゃん」

玄関先には璃空がいた。

「もういっちゃうの?」

「ああ、まあすぐ会えるからな」

僕は、璃空の頭を撫でる。

彼は知らない。この先の受難を。

心の中で頑張れと言っておこう。

まあ、実際GW最終日くらいには会うことになるかな。

「じゃあ、またな璃空」

「うん、幸多兄ちゃんまたね」

僕は、璃空に背を向け家を出る。

神社の階段を下っていく。

境内の真ん中位に車が停まっていた。

その前に、親父がいる。

どういうことだ?

「幸多、免許は取ったな?」

「ああ、取ったよ」

「じゃあ、この車を使え」

親父が、僕に鍵を渡すと言ってしまった。

車は、黄色のコンパクトカーだった。

え、これって最新モデルだった気が済んだけど。

たしか、車載Wi-Fi内蔵のやつだ。

学生に、これは早くないか?

「幸ちゃ~ん」

遠くから美咲の声が聞こえる。

僕は、手を挙げてそれに応える。

トコトコと美咲が駆けてきた。

「ねえねえ、幸ちゃんこの車は?」

「なんか、親父に貰った。乗れだってさ」

「そうなんだ、じゃあ私の車なんだね」

「まあ、そうだな。使えってことは、そういうことだよな」

僕は、足をセンサーにかざし、スライドドアを開いた。

ハンズフリーで開けれる機能が付いているタイプだ。

「え、なにしたの?」

「リモコン持ってると足で開けれるんだよ」

「え、そうなんだ。すごいね」

「じゃあ、こっちに荷物入れて出発しようか」

「うん、楽しみ」

僕らは、荷物を後部座席に入れた。

特に増えた者も無い。来たままの量だった。

「じゃあ、美咲乗って乗って」

「はぁい、幸ちゃんの運転。幸ちゃんとドライブ」

美咲のテンションが上がっている。

新しいおもちゃを手に入れた子供の様に。

まあ、僕もちょっとテンションが上がる。

「安全運転でね」

「もちろんだよ」

僕らは、車に乗り込む。

美咲が、隣にいてドキドキする。

密室で、そばにいるって少し新鮮だよな。

僕は、セルボタンを押してエンジンをかける。

静かな起動音。

「あ~、音楽欲しいな。スマホでなんかかける?」

「う~ん、今日はおしゃべりしたいかな」

「そう?まあ、欲しくなったらいってね」

「は~い。あ、CD借りに行くのもいいよね」

「たしかに、じゃあCD借りに向かってみようか」

僕は、パーキングからドライブに入れ、フットブレーキを解除する。そして、車を発進させた。

ゆっくり、アクセルを踏む。

景色が少しずつ動いていく。

ゆっくりゆっくりアクセルを調整しながら僕らは神藏大社を後にした。


CDも借りてカーナビに音楽を録音したり、カーアクセサリーを買って僕たちなりにコーディネートした。

もうすぐ、日が暮れそうだった。

もう、夕方なんだな。

時間が経つの早いな。

「幸ちゃん、そろそろ変えろっか」

「そうだなぁ、あ!」

「どうしたの?」

「明日、遠出しない?せっかく車もあることだし」

僕は、美咲に提案する。

行ってみたかったんだよね。

「いいよ、どこいくの?」

「遊園地!!」

「ほんと!」

美咲は、遊園地が好きだ。

それも、有名なあの遊園地が。

「幸ちゃん幸ちゃん、遊園地ってあの遊園地だよね?」

「もちろん、美咲が大好きな遊園地だよ」

「ありがとう、幸ちゃん」

僕らは明日東京に向かうことにした。

片道1時間くらいのドライブだ。

高速乗るけど、ほんと安全運転で行こう。

美咲が、嬉しそうでよかった。

言ってよかった。

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