第25話 GW 月夜

僕は、寝付けずパジャマ代わりの浴衣のまま外に出た。

時刻は、深夜1時頃だろうか。

空には、煌々とした月がちょうど真上に来ていた。

流石に、閉門もしているのでこの時間には参拝客もいない。

閉門してるのは、今でなら意味が分かる。

皆、化生をし続けるのは辛いだろう。

神藏神社の短い階段を下っていく。

ちょうど神楽宮の方からも人が歩いてくるのが見えた。

それが、誰なのか僕にはすぐわかった、

足取りが早くなる。

僕は、駆けていた。

「美咲!」

「幸ちゃん!」

境内の真ん中で僕らは抱き合っていた、

そして、長い口づけを交わす。

「えへへ、幸ちゃんだ」

美咲の瞳からは、涙が零れていた。

僕は、その涙を指で拭う。

「わたし、やっぱりそばに幸ちゃんがいないとダメみたい」

「それは僕もだよ、美咲がいないと眠ることもできないみたいだ」

「お揃いだね、えへへ」

美咲が、笑みを浮かべる、

きっと、僕も笑っているだろう。

いや、緩み切っているかもしれない。

「もう、これからは僕ら二人だけの生活になるね」

「うん、千智には感謝しても足りないくらいいろんなものもらった」

「いつか、僕らが返していこう。

千智さんに。そして、次の世代に送っていこう」

恩を送るだけじゃなく、恩を送ってそれが引き継がれて輪になっていく。

それで、幸せになれるなら僕らはそうして生きていきたい。

「幸ちゃん」

「ん?どうした」

「明日からどうしようか、お休み」

「そうだなぁ、連泊できるくらい旅行の準備してあるし旅行でも行こうか」

そう言ってみたのはいいが、GWなのだどこも混んでいるし宿泊予約なんてとれるわけがない。

まあ、家に帰っても二人でいることには変わりはないから旅行でなくてもいいが。

「いまからだと、無理かも。

それに、璃空くんのこともあるからGWの終わり頃にもまた来ないとだよ」

「ああ、引っ越しがあったな」

そうだ、璃空の引っ越しがあったのだった。

GW明けには寮でということだった。

さて、この寮の話もしなくてはならい。

「びっくりだよね、寮って聞いたから学校のかと思ってたのに」

「ああ、まさかうちの下の階だとはな。

千智さんの荷物、車に詰め込んだ意味よ」

そうなのだ、僕らは寮というから学校も変わって全寮制のとこにでも行かせるのかと思ったら名称として『寮』だったとは。

つまり、GW最終日ないし、その近辺は引っ越しを手伝わないといけない。

あのアパートも、実は神藏が建てたアパートらしく入居者は僕らしかいなかったらしい。

そして、元より間取りも相当こだわり抜いているそうだ。

僕らの部屋は、3人が住めるようになっている。が、璃空の部屋は二人部屋が3つと一人部屋が1つ。

さらに、2階建て構造というではないか。

うちの倍以上の規模だというから驚く。

ちなみに、使用人部屋が3部屋と言っていた気がする。

うちの下の階すごいな。

「じゃあ、美咲。毎日デート行こうか」

「あ、それいいかも」

「じゃあ、明日もデートしようか」

「うん、しよ。えへへ、うれしいな」

美咲が、笑みを浮かべる。

その笑顔に、幸福を覚える。

浴衣姿の美咲は、いつもより身体の凹凸が露わになっている。

記憶にある美咲とだいぶ変わってきている気がする。

よく見ると、幼児体系だったと思っていたのにとても女性らしく見える。

「えっと、なに?幸ちゃん、恥ずかしいよ。そんなに見つめたら」

「ああ、ごめん。こないだの買い物の時にも思ったけどさ」

「う、うん」

「体つきがだいぶ変わってきていて、目のやり場に」

「ばかぁ」

頬をぷくっと膨らませながら、美咲は頬を朱に染めていた。

彼女は、いままで無理をしていた分今一気に大人に近づいている。

きっと、今年の夏が来たら飛び切り海が似合うんだろうなと、僕は美咲が水着を着ることを妄想していた。

「美咲、今年海行こうか」

「いいよ、幸ちゃんを悩殺してあげる」

「う~ん、いまの美咲じゃ悩殺は」

やばい、また軽口叩いてしまった。怒られる。

と思ったがいつもの美咲の怒りはなく。

「いまの私じゃダメでも、夏の私ならきっとできる気がするの。

だって、幸ちゃんが思った私がきっと夏の私な気がするから」

「たぶん、私はその頃にはきっと今以上に幸ちゃんに大好きって言わせられる私になってると思うから」

「あ~、それは確実だね。だって、いまだって大好きなんだから」

月光に照らされる美咲の髪はキラキラ輝いて見えた。

とても神秘的で、僕の心を攫う。

いや、僕の心はずっと美咲に奪われている。

幼い頃にここで出会った頃に、同じ月の光を浴びて輝いて見えたあの日から。

僕は、幼い頃の美咲にずっと心を奪われていたんだと思う。

「美咲、綺麗だ」

「ほぇ、えへへ。ありがとう」

「あの月夜に、君を見た時からずっと恋に落ちてた」

「幸ちゃんからそんな話聞くの初めて」

「いや、恥ずかしいじゃん」

「よしよし」と言いながらちょっと背伸びしながら僕の前髪を撫でる美咲。

ああ、もう背伸びしただけで僕の髪に触れられるのか。

できたら、これ以上背は大きくならないでほしいな。

抜かされたくはないな。

「幸ちゃん」

「ん?」

「また、聞かせて。幸ちゃんが好きな私の事」

「ああ、じゃあ美咲も聞かせてよ。

美咲が好きな僕の事」

そして、二人で笑い合う。

僕たちは、抱きしめ合い。

長い口づけをした。

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