第24話 GW 集い
僕たちは、手を繋いでない手でトランクを押していく。
石畳に、ガタゴトガタゴトとならすトランクの車輪。
まずは、神藏から。
僕らは、神藏神社脇の社務所へと向かった。
社務所からのほうが実家の玄関に近いからだ。
それに、この時間だとみんな社務所にいるだろう。
社務所の入り口脇には、立派な横開きのドアがある。
そこが、神藏家の玄関である。
ガラガラガラっと音を立て、扉を開けて中へと入っていく。
「あ、幸多兄ちゃん」
その声とともに、子供時代の自分と見た少年がやってくる。
髪は、坊主といっていいくらいに短いが黒髪で、ランニングシャツに短パンと気合の入ったファッションだ。
「璃空、久し振りだな。元気にしてたか?」
「元気だよ、幸多兄ちゃんは?」
「僕も元気さ」
さっき聞いた話が頭をよぎったが口に出してはいけないと思った。
口にして、もし璃空が嫌だと言ってしまっては大変なことが起きてしまうから。
「あ、美咲姉もおかえりなさい」
「璃空ちゃん、久し振り」
「あれ?美咲姉なんか明るくなった?」
「まあ、色々あってな。そういえば、父さんたちは?」
僕は、璃空の頭を撫でまわす。
チクチクして気持ちいいな。
坊主は、感触が違う。
「母さんたちなら、美咲姉のお家のほうに行ったけど」
「なんだ、入れ違いか。璃空悪いが荷物置いといてくれ。
神楽宮にも挨拶行ってくる」
「うん、預かっとくね。ふたりともいってらっしゃい」
僕らは、トランクを璃空に預けて踵を返し神楽宮へと向かった。
対した距離はない。
せいぜい数百メートル。
「さっきの話聞いた後だったから、口が滑りそうで怖かったよう」
「僕もだよ、つい言いそうになった」
「心配?」
「いや、千智さんがサポートするなら大丈夫だろう」
「そうだね」
喋っていたら、もう神楽宮神社に辿り着いた。
神楽宮神社は小さな社と鳥居があるだけで、むしろ神楽宮家のほうが社より大きい。
僕らは、玄関へ向かいチャイムを鳴らす。
「ピンポーンピンポーン」と軽快な音が聞こえた。
ガラガラガラと横開きのドアが開く。
「あ、ねえね」
今の美咲をずっと小さくしたような少女がドアの間から現れた。
セミロングで前髪パッツン、着物姿の女の子。
「美来、久し振り」
キャッキャと叫ぶ声に奥から人がやって来る。
談合でもしていたのか思うほどの人数だ。
神楽宮だけではなく、他のうちからも来ているようだ。
「あれ、美咲に、幸多君。いらっしゃい。
上がって上がって。
ちょうど、みんなで集まってたとこなの」
美咲の母 美香さんがそう言った。
美香さんは、いつか美咲もこうなるんだろうなと思う純和な人だ。
おっとりした性格で、美咲と同じ黄金色の長髪で着物を着ている。
まあ、一部はたぶん。
「美咲痛い」
「知らない」
美咲に、手の甲を抓られた。
正直考えてることがそんなにわかるのか教えてほしい。
「きっと、美咲のいまに」
「幸ちゃん、怒るよ」
「はい、ごめんなさい」
「でも、そうなったら幸ちゃんうれしい?」
「もちろん!」
僕は即答で答えていた。
少し、美咲は呆れた風だったけど。彼女のそばにいるのは僕なのだから許してほしい。
その後、僕らはその談合に参加することになった、
内容は、さっき千智から聞いた話だった。
先に聞いてしまったので対して驚くことはなかった。
そして、ここにはその璃空の許嫁の6人が集まって談合に参加していた。
ああ、璃空だけ知らないパターンか。
もしかすると、同じことが過去にもあったのかもしれない。
まあ、あったとしても候補は美咲だけだったわけだからそこまで難しいことはなかっただろう。
そして、僕らを呼んだ理由は。
次代の為の話し合いに参加させること。
近況の報告。
千智との別れ。
それが、この日呼ばれた理由だった。
談合は、遅くまで続き僕らは今日はそれぞれの実家に泊まり、明日帰宅することとなった。
長期間滞在とかでなくてよかったけどなんか拍子抜けだな。
そう思ってしまうのはなぜだろうか。
そして、久方ぶりの一人の夜。
めちゃめちゃ寂しい。
美咲が横にいないだけでこんな寂しくなるなんて。
夜は、更けていく。
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