第23話 GW 別れ
翌日、僕らは千智の運転する車で神藏大社へと向かっていた。
車のトランクには、荷物が入らないようで僕たち二人の荷物は足元に置いてある。
僕がトランク1つ、美咲はトランクと大きめなトートバッグをそれぞれ1つずつ持ってきていた。
神藏大社の中は、中央にうちの実家神藏家があり、それぞれ四方に4正家の家がある。
中央が神藏神社、南に神楽宮神社と美咲の実家がある。
「美咲、どっちからいこうか?」
「え、さすがに幸ちゃんのうちからのほうがいいよ。一応、神藏大社としては宗家なんだし」
「まあ、一応その位置づけだけども」
実際には、神藏の家は4正家の神使に比べると位階はかなり低くなる。
神使>神藏家>4正家という位置合いかな。
個人が第1位になるということ。
「それに、わたしそんなに偉くないよ。ただの幸ちゃんのお嫁さんなだけだもん」
「そうだね、僕も人を人として見ないのはやだな」
「幸ちゃん、好き」
美咲が、ベルトをしているためか寄り添うように僕の肩にもたれかかってきた。
僕は、肩に手を回すように美咲の髪を撫でる。
「僕も好きだよ、美咲」
「お二人共お暑いですね」
「クスクス」と笑う千智。
でも、どこか寂しさを感じる・・・ような気がする。
「千智さん、なにかありましたか?」
「幸多様には分かってしまうのですね、わたしもまだまだです」
「それはどういう?」
ルームミラーを僕らに合わせて千智は話を続けようとする。
僕らは、彼女の次の言葉を待った。
「お二人のお世話は、この帰省までとなります」
「やはりそうでしたか、昨日の様子からそうなんじゃないかとは薄々」
そう、僕は昨日気づいていた。
こうなるんじゃないかと。
千智も、普段から頻繁にスマホを見ることはない。
なのに、昨日は僕がダイニングに来てもすぐには気づかなかった。
それほどに動揺していたということ。
そして、僕らの帰省だけなのに準備が必要なこと。
この車のトランクが荷物がすでにいっぱいで僕らの荷物が載せられないこと。
全てに符合する。
「そっか、千智。いなくなっちゃうんだ」
「美咲様、申し訳ありません」
「ううん、わたしもそうなるんだろうなって実は思ってた」
僕たちは千智に甘えすぎていたんだろうな。
いることが当たり前だと思っているほどに。
「美咲様は、最近は料理の腕もあがってもう立派に家事ができるようになりました」
「うん、千智のおかげ」
そう、美咲は結婚後から千智から料理を教わりある程度の物なら作れるようになった。
たまに、失敗があるけどそれはこれからは僕がサポートすればいいことだよな。夫婦なんだから。
「幸多様が、美咲様とご結婚されて本来はそこで私の役目は終わりになるはずでした」
「やはり、そのタイミングだったんですね」
「はい、ですが少し猶予を戴いたのは美咲様が意欲的になって来た家事を教えてあげたくて・・・」
「千智、ありがとう。私のわがままに付き合わせて」
「滅相もありません」
全ては、美咲のためだったんだな。
これからは、二人で支え合っていかなきゃ。
「千智さんは、このあとはどうされるんですか?」
「そのことなんですが、実は私このあと璃空様のところへいくことになりまして」
「え、璃空のとこですか」
弟の名前がここで出てくるとは思わなかった。
そういえば、璃空の世代は4正家がたくさんいたなぁ。
世話役もたくさん必要か。
「お察しの通りです」
「ちなみに、璃空はこの先どうなりますか?」
「あまり他言はできないんですが、お二人になら許されると思います」
なかなかに、弟は大変なことになるのではないだろうかと話を聞く前から思った。
「GW明けになりますが、璃空様と許嫁様方は寮にはいることになります」
「思い切ったことしますね、それなら確かに人手が必要ですね」
「いまの美咲に割くリソースよりも未来に投資するのはうなずけます」
弟には、この先の4正家の命運がその双肩にかかっているのだから。
すまんな、璃空。
僕には、美咲一人しか愛することができない狭い人間なんだ。
「幸ちゃんの優しさは、私だけの物」
「そうだね、美咲以外は愛せないし、好きにもならないから」
やがて、神藏大社が見えてきた。
もうすぐ、別れが迫っている。
「じゃあ、僕らはここで降りたらお別れということですね」
「そうなりますが、私は璃空様のところにいますのでなにかありましたら、いつでも訪ねてきてください」
「それもそうですね、これが今生の別れではないですものね」
「そうです、それに10年後。
璃空様が結婚するころには、幸多様が御当主様になっているかもしれませんから」
言われてみれば、10年後にはそうなっていてもおかしくはない。
あの親父が、当主を降りる可能性があるかはいまいちわからないが、可能性がないわけでもない。
まあ、お袋がそうさせそうな気さえする。
「でわ、そんな未来が来ると信じてお別れしましょう。でも、さようなあはいいませんよ」
「そうですね、幸多様、美咲様。いってらっしゃいませ」
「「いってきます、千智(さん)。」」
そうして、僕らは車から降りていく。
そして、僕らを下ろした車を見送るのだった。
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