第19話 動き出す『時間』

始業式から数日たったある日。

もう数日するとゴールデンウィークに入ろうとするそんな日の事だった。

「ねえねえ、幸ちゃん」

「今日、お買い物いこ」

「いいよ、何買うの」

「服買いたい」

服かぁ、そうするとデパート行かなきゃだな。

日曜だから混むとは思うけどイオンいくほうがいいかな。

あそこだったら、お昼ご飯も食べられるしな。

「千智も一緒にいってほしいから頼んでくる」

「千智さんも?珍しいね」

「乙女のピンチ」

僕は、首を傾げる。

美咲は、頬を赤らめて手が忙しなくなっている。

あ~、なんとなくわかった気がする。

口に出しちゃいけない奴だ。

「じゃあ、着替えて準備しておくよ」

「うん、わたしも準備してくる」

そう言って、幸多の部屋兼寝室から出ていくのだった。

美咲は、自身の部屋は今もあるけど着替えとか荷物とかにしか使っていない。

僕の部屋に全部移動させるにしても物が多すぎるから。

僕は、クローゼットからスキニーのジーンズと白のロングTシャツ、黒のベストを出し着替えた。

最近は、美咲とよく出かけているなぁ。

前は、よく家でゴロゴロすることが多かった。

4月に入り、結婚をして美咲がキツネの姿をするようになってからはいままででなかった外によく行くようになった。

表情もどこか明るくなって、しゃべり方も随分と変わった。

いい傾向だと思う。

やはり、隠して過ごすのは相当につらいものがあったのだろう。


30分ほど経った頃だろうか。

「コンコン」とノックされたと思うとドアが開いた。

「幸ちゃん、お待たせ」

そう言って、美咲が部屋に入ってきた。

ピンクのスカートに薄手の赤いスカジャン。

髪は、腰くらいのあたりでいつものリボンを結んでいる。

「お、今日もかわいいね。似合ってる」

「えへへ、ありがとう。幸ちゃんも、かっこいいよ」

「ありがとう、じゃあいくか」

「うん、イオンまで千智の車で行くよ」

やっぱり、行先はイオンか。

ということは、ちょっと郊外までいく感じか。

ここから、最寄りのイオンまでは1時間くらい車でもかかる。

電車やバスを使っても同じぐらいはかかるだろう。

部屋を出ると、リビングでは千智が待っていた。

彼女は、黒のパンツに白いニット、ベージュのロングジレを着ていた。

とっても、大人な雰囲気がする。

普段とは、違う服装にドキっとした。

「幸ちゃん、千智ばっかり見ないで。私を見てて」

「ごめんごめん、千智さんが洋服来てるの初めて見たから。ほら、いつも巫女服だし」

「確かに、いつもあの格好」

「お二人共恥ずかしいのでやめてください。それよりもいきましょう」

珍しく、千智が照れていた。

普段、そこまで意識していない女性の変化に戸惑う。

そういえば、変化といえば・・・。

「そういえば、最近気になってたんだけど」

「どうかしたの?」

「美咲、背のびた?」

美咲の視線が、明らかに下に下がっていく。が、耳が赤い。

えっと、どういう状態?

「幸ちゃん、なんでわかったの?」

「ああ、やっぱり伸びてるのか。いや、頭撫でるとき高さが変わってるなって思ってた」

僕は、そういいながら美咲の頭を撫でていた。

最近、美咲の頭を撫でるとき気持ち高い位置を撫でてる気がしてた。

「幸ちゃん、大好き」

「おっと」

美咲が抱き着いてきた。

喉元に、頭が当たる。

「ご、ごめん。幸ちゃん」

「ああ、大丈夫大丈夫」

「自分でも慣れてないんだよね、距離感」

「え?そんなに伸びてるの!」

「うん、着られる服もうそんなにないの」

ああ、それで服を買いに行くのか。

それは、納得だ。

「それにしても、なんで急に」

「たぶん、術の所為だと思う。私ずっと、使っていたから成長もそっちに持ってかれてたんだと思うの」

「なるほど、急に大人びたりするってことか」

「どうなるかちょっとわかんない」

ということで、今日の目的がわかったので僕らは一路イオンへと出かけることとなった。

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