第18話 幸多と千智(2)
キスの嵐がピタッと止まって、寝息に変わった美咲をベッドにそっと寝かせ、僕は飲み物を取りにキッチンへと向かった。
「あれ、幸多様」
「あ、千智さん。美咲が、ちょっと甘えん坊になっててなかなか来れなくなってました。すいません、ご飯用意していてくれたのに」
「いえいえ、美咲様が幸多様を好きな証拠ですからお気になさらず」
「あ、戴いてもいいですか?」
千智は、嫌な顔をせず用意してくれる。
ダイニングに、次々に料理が置かれていく。
「ありがとうございます、いただきます」
おかずは暖かい。いつ温めていたんだろう。
時計を見れば20時を回っていた。
「幸多様。美咲様があとで起きたときに食べれるように稲荷寿司用意してありますのでお持ちください」
「ありがとうございます、助かります。じゃあ、この料理は僕が食べないとですね」
「残していただいても構いませんよ」
「そんなもったいないことしませんよ」
僕は、千智にそう言って食べ始める。
今日は、少量のおかずが小鉢に5種類ほど入れてあるだけだった。
きんぴら、法蓮草のお浸し、ぜんまいと油揚げの煮物、オクラのおかか和え、冷奴だった。
「うん、美味しいです」
「ありがとうございます」
千智は、テーブルにラップのされた稲荷寿司と水筒が置かれた。
「そうでした。明日、学校は」
「明日は、まだお昼までですね。土日をはさんで月曜日からが1日です」
「かしこまりました」
そういうと、千智はキッチンの奥へと行ってしまった。
僕はそのままご飯を食べていく。
これくらいの量なら食べ残すことはない。
「ご馳走様でした」
「はい、お粗末さまでした。あ、そのまま置いておいてください。後片しておきますので」
「ありがとうございます、えっとこの水筒は?」
「氷入りの玄米茶です、よろしければお部屋で召しあがってください」
僕は、用意された水筒とお皿をもって自室へ戻ることにした。
「千智さん、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさいませ」
僕は、ダイニングをあとにした。
まだ、美咲は起きていないんだろうな。
僕が、自室の部屋の前までくると急にドアが開いた。
眠気眼の美咲が、ドアを開けて出てきた。
「幸ちゃん、お腹空いた」
「ちょうどよかった、これもらってきたから部屋で食べよっか」
「お稲荷さん!!食べる」
美咲は、そのまま部屋の中へと戻っていく。
もう、その目はさっきの眠気眼ではなくはっきりと目覚めたようだった。
「じゃあ、お皿もってくれ」
「はぁい」
美咲は、お皿を受け取るとペリッとラップをはがして手掴みで稲荷寿司を食べた。
お皿の上には、10個ほどの小ぶりな稲荷寿司が置かれている。
「このお稲荷さん、中にいっぱい具が入ってる」
「え、具?」
「うん、多分五目寿司だと思うよ」
「へえ、そんなのあるだな。知らなかったよ」
僕は、ドアを閉めて中に入ると持ってきた水筒の中身をコップに注いで美咲に渡した。
「盗ったりしないからあわてず食べろよ」
「うん、幸ちゃんは食べないの?」
「僕は、いまご飯食べてきたから」
「そっか、じゃあいただきます」
美咲は幸せそうに稲荷寿司を食べていた。
やっぱり、狐だから稲荷寿司好きなのかな。
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