第13話 全校生徒の前で叫ぶ

ご飯も食べ終わり、僕らは鞄を持って自宅を後にした。

学校までは、5分と掛からない。

アパートを出ると学生の波が出来上がっていた。

今日、午前の登校は3年生と2年生だけなのでそこまでは多くないのだがちょうどいまがピーク時間のようだ。

ちなみに、午後からは入学式がある。

現在の時刻は、8時20分。

SHRが、8時45分からなので充分に余裕がある。

今日は特に、クラス分けの組み分け票の掲示が行われている影響もあるのだろう。

「美咲」

そういって、僕は美咲の手を取り歩き出した。

彼女は、その背の低さもあるため割と人ごみに紛れ込んでしまう。

「ありがとう、幸ちゃん」

去年は一年間美咲とは別のクラスだった。

さすがに、今年は一緒がいいな。

「わたしも、幸ちゃんと一緒がいい」

「僕、声に出してた?」

「幸ちゃんは分かりやすいだけ」

ホント、心読めたりとかしない?大丈夫?って毎回思う。

やがて、校門をくぐり昇降口へと続くエントランスへと辿り着いた。

エントランスには、2年と3年のクラスがそれぞれ9クラス分張り出されている。

僕らは3年なので3年の掲示を見に行く。

が、人垣でほとんど見れない。

「幸ちゃん、見れる?」

「いや、無理だな・・・あ、忘れてたんだけどさ。美咲の苗字変わったの学校に言ってなかった」

そうすると、掲示されてるのは「神楽宮」なのだろうか。

まあ、どちらの名前でも確認すればいいことか。

「お、幸多!!おはようさん」

僕に、声をかけてきたのは中肉中背で黒髪短髪の親友 篠波 慶介(ささなみ けいすけ)だった。

小学低学年からの腐れ縁。

一応、美咲とも知らない仲ではない。

「慶介、おはよう。掲示板みた?」

「いや、まだだ。って、神楽宮そんなとこにいたのか」

美咲は、僕の前にいるから後ろからだといないように見えるのだと思う。

「慶介くん、おはよう」

「お、神楽宮が挨拶を返してくれるとは珍しい」

まあ、いままでの美咲にはその余裕がなかったんだろうな。

なにせ、自己犠牲魔法・・・。

「あ、慶介に言ってなかった」

「ん?なにをだ?」

「僕たち1日に結婚したから美咲は、『神藏』だわ」

「はぁぁぁ?結婚?お前らが!!」

慶介が、大声でそう返した。

その為、周囲の視線が集まる。

「慶介のアホ!!大声で言うなよ・・・あ~、こりゃあ手遅れだ」

辺りからひそひそ声がする。

今は、ピークタイム。ほとんどの生徒がここにはいる。

全校生徒に伝わったんじゃないか?これ。

仕方ない。

「はぁ、仕方ない。えっと、みんな聞いてほしい。

僕は、この度18歳の誕生日を迎え、兼ねてより許嫁としてきた『神楽宮 美咲』と晴れて夫婦の契りを交わした。夫婦共々これからよろしく頼む」

なんか演説みたいになった。

でも、後悔はしてない。

ここは、はっきりみんなに知っておいてもらった方が後々楽だから。

パチパチと拍手が上がる。

目の前にいる慶介も拍手をしている。

拍手のうねりは、増す一方だった。

「神楽宮・・・じゃない神藏・・・だと二人共かややっこしいは」

「なに?慶介くん」

「おめでとさん、まあ幸多と末永くお幸せに」

「ありがとう」

「それにしても、よくしゃべるな。低燃費のおまえさんはどこへいった」

美咲の顔は朱に染まっていた。

まあ、照れるのもわかる。

僕も、照れくさいしね。

「神藏になったから?」

「そかそか、じゃあ納得。がはは」

それで、納得するのはお前くらいだよ。慶介。

まあ、深く追及されないならそれでいいんだけどな。

「それにしても、幸多は人前に強いな」

「不本意だけどな、でも今回は打算的にこれが一番いい気がしたんだ」

「神楽・・・めんどい。嫁のためか」

「・・・ああ、美咲のためだ」

全ては、美咲の平穏のためだ。

大半の人間は、美咲と関わらないだろう。

だから、全てのヘイトは僕に集めればいい。

そうしている間に、掲示板の人垣が減ってきた。

「幸ちゃん、同じクラス」

美咲が指を差していたのは、1組だった。

そこには確かに「神楽宮 美咲」「神藏 幸多」の名前が並んでいた。

「よかった、今年は一緒だな」

「今年?幸ちゃんとはもうこれから一生一緒だよ」

「ああ、まあそうだな」

「お二人さん、ごちそうさん」

美咲は、無意識に何を言ってるんだ。

確かに夫婦だから一生一緒だけどさ。

「そういえば、慶介は?」

「あ?なんだよ、親友。見えてないのかお前の下に俺の名前もあるだろう」

『神藏 幸多』『篠波 慶介』と確かに並んでいた。

なぜ、見逃したのだろうか。

真下にあるはずの名前を。

「そんなことより、クラス行こうぜ」

「慶介、ごめん。職員室行かなきゃならんくなった」

僕は、美咲の名前を指差す。

すぐに、慶介も気づいた。

そう、美咲の苗字が旧姓の事に。

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