第12話 『はじまり』の朝に
今日は、始業式だ。
遂に、高校最後の年が始まる。
将来の事は、不安でしかないが美咲を幸せにするって気持ちだけは不安がっちゃだめだな。
僕は、ダイニングで朝食後のコーヒーを啜っていた。
そこへ、遅れて美咲がやってくる。
2週間ぶりに見る制服。
紺のブレザーに、同色のスカート、赤いネクタイをしている。
うちの高校は、男女共にブレザーである。
ブレザー自体は同色だし、ズボンも同じ紺。
男子は、さらに紺のネクタイ。
もう、紺のフルコーディネートである。
「美咲、おはよう。今日も制服似合うね」
「幸ちゃん、おはよう。えへへ、ありがとう」
最近の美咲は、前までの低血圧みたいな雰囲気はない。
明るく元気、年相応の女の子だとおもう。
「幸ちゃん、それは四六時中隠さなくてよくなったからだよ」
「ああ、寝てるときも前は隠してたよな。やっぱり、大変なの?」
当たり前のように、美咲は僕が考えていることを平気で答えてくる。
そんなに、僕はわかりやすいのだろうか。
「えっと、幸ちゃんの好きなゲームでいうところのMPが0だからってHP使うみたいな感じ」
「いやいや、何その自己犠牲魔法」
「ということでお家ではもう隠しません。前はおしゃべりするのも疲れた」
ここ最近の美咲と前の美咲との齟齬がやっと一致した気がする。
まあ、人見知りというかトラウマの分はどうしようもないけど。
「あ、そうだ。幸ちゃん幸ちゃん」
「はいはい、なんでしょうか」
「これで、髪の毛結んで」
美咲に、金鈴のついた赤いリボンを2つ渡された。
ふむ、二つかどう結ぼう。
といっても、僕にできるのって普通に結ぶことしかできないんだけど。
「僕に求められてもかわいくできないけど、それに2本て難しい」
「ごめんね、幸ちゃん。じゃあ、ここらへんでリボン結びして」
「1個でいい?」
美咲は、自身の項のあたりを指さしてた。
彼女は、首を縦に振っている。
それだけでいいなら、僕にもできるかな。
僕は、美咲の髪をリボンで結んだ。
その瞬間、美咲の耳と尻尾が隠れた。
「え?」
「驚いた?結婚祝いにママがくれたの」
「こんな便利な物、いままでくれなかったの」
「えっと、わたしの試験みたいなものだったらしいよ」
なるほど、慣らしていかなきゃいざって時に役に立たないってことか。
でも、これなら美咲に無理させなくていいってことか。
それはそれでよかった。
「じゃあ、これからは元気な美咲がいつも見れるってことだね」
「うん、でも幸ちゃんだけだよ」
「ありがとう、でも僕としてはみんなとも仲良くしてほしいよ」
「頑張る・・・けど、幸ちゃんがそばにいないとダメ」
口を尖がらせて、そんないじらしいことを言う美咲。
可愛いなぁ。
「美咲、早くご飯食べなきゃ遅刻しちゃうよ。すぐそこだからってゆっくりしてたらクラス替え確認できなくなっちゃう」
「あ、そうだった。すぐ食べるね」
「慌てず、よく噛んで食べるんだよ」
「は~い」
そんな光景をほほえましそうに眺める千智がキッチンにはいた。
目が合うと、口元を押さえてすぐにそっぽを向いてします。
やばい、この人にはめちゃ弱みを握られてる気がする。
千智には、かなわないな。
そう思うしかない、朝の一幕だった。
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