第9話 共に歩む契り
4月1日。
遂に、その日が来た。
僕たちは、車に乗せられていた。
運転するのは、千智さんだ。
行先は、実家 神藏大社である。
あのくそ長い階段も車でなら上がれる道がある。
境内が見えてくる。
紫色の横断幕が、まるでウェディングロードのように張り巡らされていた。
横断幕の先は、本宮がある。
「お疲れ様です。お二人ともこのあとはお着替えになります」
そう千智から告げられ、僕らは車から降りる。
巫女さんの群れにそれぞれ「こちらです」と案内されていく。
気が付いたら美咲とはぐれてしまっていた。
まあ、着替えと言ってたし大丈夫だよな。
ここ、お互いに実家なんだし。
僕の着替えが終わった。
僕の服装は、一般的な黒紋付羽織袴である。うちの家紋が入っているから代々の物なんだろうと予測できる。
美咲はどうしているだろうか。
それにしても、両家の顔合わせとかしてないけどいいのかな。
あ~、てか親戚だったわ。
幼い頃からの知り合いに今更感はある。
でも、お義父さんには挨拶をしておきたい気はする。
コンコンとドアがノックされる。
「どうぞ」
「失礼するよ」
やってきたのは、ちょうど思考していた美咲の父 葛樹さんだった。
彼は、黒髪でエメラルドの瞳を持つ長身の男性である。
頭には同色の狐の耳と尻尾が生えていた。
「くず・・・いえ、お義父さん。挨拶が遅くなって申し訳ありません。こんな直前に、それもこちらから出向くことができず申し訳ありません」
「そんなに改まる必要はないよ。君はいつだってあの子を支えてくれている。ありがとう」
「いえ、それでもこれはけじめですので・・・お義父さん、美咲さんを僕と結婚することをお許しください」
「これからもあの子のことを頼むよ、幸多君」
「はい!」
お義父さんは、それ聞くと出て行ってしまった。
きっと、美咲のとこへ行くんだろう。
それと入れ替わりに、お袋がやってきた。
「幸君、久し振りね」
「ああ、母さん久し振り」
「まさか、こんなに早く結婚するなんてね。美咲ちゃんと仲良くね」
「もちろん・・・あ、母さんなら知ってるよね。僕って」
「美咲ちゃんが、お嫁さんよ」
お袋が言葉を遮って教えてくれた。
ああ、僕の直感は間違っていなかったようだ。
「あちらも婿として迎えたかったとは思うけど、前の日にずっとお天気雨降っていたでしょ。だから、嫁入りよ」
ああ、やっぱりそれも関係してくるのか。
まあ、どちらにしたって変わりはない。
美咲を幸せにするってことは変わらないんだから。
「あれ?そういえば璃空(りく)は?」
璃空は、僕の弟の名前である。
10個離れているから8歳になる。
「璃空は・・・どこかの4正家のどこかに」
「ああ、なるほどあいつも難儀だね。人の事言えないけど」
要は、弟の世代の許嫁のとこへ連れてかれたんだろう。
璃空の世代は、4正家全てに年が近い子がいる。
僕の世代が、美咲だけだったのが救いだな。
コンコンとドアがノックされる。
「あら、そろそろかしら」
「はい、どうぞ」
そして、扉が空いて入ってきたのは白無垢姿の美咲だった。
息が止まりそうになった。
あまりに綺麗で。
いつもの幼さが残る雰囲気とは違って、仄かに化粧をしているからかすごく大人びて見える。
「綺麗だ」
「幸ちゃん、ありがとう。えへへ、恥ずかしいね」
いつもの屈託ない笑顔。
この笑顔が、好きだ。
「おば・・・ちがうちがう。お義母さん、あの・・・その」
「美咲ちゃん、無理しなくて大丈夫。わかるから」
「ごめんなさい、上手く言えなくて」
お袋は、知ってる美咲が対人恐怖症になっていることを。
あの日のつらさを。
僕は、美咲のそばへいき腰に手を当て、抱き寄せる。
「幸ちゃん、ありがとう。お義母さん、幸ちゃ・・・幸多さんとこれから二人で生きていきます」
「うん、幸君には頑張ってもらいましょうね」
「はい」
まったく、僕がそばにいないと緊張して喋れなくなるのに。
まあ、結婚するんだしこれからも美咲のことしっかり支えていかなきゃな。
そして、式は滞りなく進んでいった。
僕らは、その日夫婦になった。
永遠に共に寄り添い、支え合い、助け合うと言う契りを神に誓った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます