第6話 狐の嫁入り

3月26日。今日も、天気雨が朝から降っている。

この雨は一体いつになったら止むのだろう。

いや、普通に雨が降るならわかるんだけどさ。

雲一つないのに降り続けるのが意味が分からない。

まったく、どんな狐が嫁入りしてるんだか。

牛車にでも乗ってるのか?

僕は、美咲と手を繋いで神藏大社の長い階段を上っている。

彼女は、ポンチョ型の黄色いカッパを着ている。

それだけみると幼児・・・いたっ。

また、美咲に脛を蹴られた。

「幸ちゃん、怒るよ」

「ごめんなさい」

蹴ってるのにまだ怒ってないの?

怖すぎるんだけど。

僕は、自宅にあった大きな黒い傘を差している。

てか、階段つらい。


やがて、僕らは境内に辿り着いた。

石畳と玉砂利でできた境内には、所狭しと巫女装束の女性たちが列をなしていた。

その列の先に、青い袴に白い襦袢を纏った中年の男性・・・親父が立っていた。

「おかえりなさいませ、美咲様。幸多様」

巫女たちが僕らへ挨拶をする。

美咲は、僕の背後に隠れた。

僕の腰にしがみついている。

冷たい、合羽びしょ濡れでしがみつくのはやめてほしかった。

「二人とも中へ」

そう、親父に促され本殿へと入っていく。

「座れ」

僕は、胡坐を掻いて座る。

美咲は、寄り添うように僕の隣に座った。

「幸多、4月1日で18だな」

「ああ、それが?」

「美咲と席を入れろ、式はここでする」

「は?え、結婚。いやいや、僕たち高校生なんだが」

わけがわからない。急になんだよ、それ。

許嫁の話じゃ。

あ~、いまが許嫁なのか。

くそ、わけわかんねぇ。

「法律で何の問題もない」

「法はな、僕・・・いや、美咲の気持ちはどうなる?」

「わたしはいい、幸ちゃんじゃなきゃヤダ」

な、なにいってんだよ。

これ、退路なくない。

まさか、そのために美咲を。

「おまえに選択肢はない。美咲が、お前を選んだ」

「どういうことだよ」

「美咲、もういい」

「ん」と小さな声をあげて、美咲が僕の胡坐に飛び込んでくる。

その頭には、髪と同じ色のピンと立った獣の耳が付いていた。

耳は先端が白くなっている。

そして、美咲のお尻にも髪と同じ色の尻尾と毛先は白くなっていた。

「美咲、これって。えっ?」

「わたしの耳と尻尾」

「美咲は、神使(しんし)。私よりも位階は上だ」

神使ってたしか神の使いだよな。

頭がこんがらがってきた。

「幸多、お前は啓示によって美咲の夫とする。異論は認めん。神の啓示だ」

そして、僕は美咲と婚姻を結ぶことになる。

天気雨・・・狐の嫁入りのキツネは、美咲のことだったみたいだ。

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