悪徳権力者を始末しろ！

第２８話 隠蔽体質

「ありがとう。防火シャッター無かったら死んでたかもだよ」

　飛奈は部屋に入るなりそう言いながら私に抱きついてきた。かもだよ？何か変な言い回しになってるぞ？と、思ったが興奮しているのだろうと思い、触れないで置くことにした。

「あー、もー、耳がガンガン鳴ってるよー」

　耳の良い梨名にとっては人一倍辛い衝撃音となったのだろう。部屋に入るなりそう言って両耳を手で押さえながらソファーに『ドカっ』と倒れ込んだ。

「もしかして、今だったら梨名さんの悪口言っても聞こえないですかね」

「かもね」

　その姿を見た飛奈と天衣は意地悪そうな笑顔を見せると『大食い』やら「つり目』やら『方向音痴』、『短気』などなど一斉に罵り出した。

「全部、聞こえとるわボケーっ！」

　梨名は一瞬『ピクっ』となった後、急に立ち上がり２人に掴み掛かった。飛奈は天衣を突き出しその後に隠れる。

　突き出された天衣は必死で弁明しているが、頬をつねられたり顔を揉みくちゃにされたりして酷い顔になっていた。

「痛い、痛いです」

「ごめんなさいは？」

「ごめんなさい」

「よし」

「リーダー、酷いですよー」

　膨れっ面になった頬は散々摘まれたせいか赤くなっていた。

　粉塵爆発の現場にいたというのに全くタフな奴等だ。一歩間違えば死んでたかもしれないんだぞ。どういう神経しているんだコイツ等は。元気で何よりだが少しは『反省というものをしましょうね』と、思った。

「コラーっ！全員そこに座りなさいっ！私、作戦は中止って言いましたよね？」

　私に凄まれると、全員恐縮したような顔になり、スゴスゴと私の前に座り出した。言ってもいないのに全員正座して座りだす。

「今回の件は深く反省している次第であります。どうかご容赦下さい」

　そう言って飛奈は土下座の体勢になってきたが反省しているようには見えない。絶対、おちょくってるでしょ。

「あなた達は？」

「華鈴様のご尽力により命拾い致しました。誠にありがとうございました」

「華鈴様が、プッ」

　天衣は言っている途中で吹き出してしまった。それを梨名が小突いて制する。私が目を細めると、恐縮した顔になり続けた。

「華鈴様がお救いくださったお陰で、今もまだ存命できている次第であります。この御恩は一生かけておか、、」

　そこで天衣は笑いが堪えられなくなってしまった。

「ダメでしょ。笑っちゃー！」

「ムリ、ムリ、ムリ、もう我慢の限界」

　怒っても無駄なようだ。怒ってもこの娘達には戯れ合うネタを提供するだけのようだ。

　次からはちゃんと撤退する理由を明確にして、撤退したくなるように仕向けないとダメだなと思った。

　さーて、どうしましょう。もう手持ちのカードは全て使い切ってしまった。何か作戦を考えなくてはいけないのだが。

　３人はまだ戯れあっているようだった。

　戯れ合う姿を見て、この娘達に次の作戦を考える気は更々無いなと思い、何か良い案は無いかとパソコンを叩き画面を見つめ思案する。

　その間も３人は『キャキャ、キャキャ』と楽しそうだ。

　もう感染者は使えない。感染者が残っていたとしてもごく少数だろうし、向こうも生態と特徴を把握してしまっている。

　気化爆発や粉塵爆発を使ってきていることから考えても、向こうも遠慮なしのガチできている。こちらも遠慮する必要はないと考えた。

　あの手でいこう。

　向こう側が潜んでいる部屋を探しだし、最終手段が使えそうだと思い私はほくそ笑んだ。

「華鈴、お腹空いたー、もう帰ろー」

　飛奈がいきなりそう言ってきた。

「帰ろうって、ここまでやっといて終わるの？」

「もういいでしょ。坂口は後で暗殺すれば」

「暗殺でいいなら、なんでここまでの茶番劇したのよ？」

「それは華鈴が物好きだからでしょ」

「物好きって、あなたが、できるだけ騒ぎが大きくなるような作戦考えてって言ったんでしょ」

「そうだっけ？」

「呆れたー、どんだけ物忘れ激しいのよ」

　私が飛奈を呆然と見ていると、梨名と天衣も隣に立って白い目を向けていた。

「何よーっ！」

「もう飽きちゃったんだろ」

「リーダーはお子ちゃまですねー」

「この前買ってあげた大きいイルカのぬいぐるみも飽きて放置してるし」

「それはお前だろーっ！」

　そう言って飛奈は梨名のことを追いかけまわし出した。

「そもそも、なんでこんな大掛かりなことしようと思ったんでしたっけ？」

　その様子を笑いながら天衣は私にそう聞いてきた。

「だから、あれでしょ、騒ぎを大きくして隠蔽できないようにしましょうって話でしょ」

「向こうで勝手にドカン、ドカンやって盛り上がってるから、もう隠蔽は無理でしょ。もうこの辺でいいんじゃない？」

　飛奈は梨名を捕まえ羽交い締めにしながらそう言ってきた。

　大丈夫なのかよ！

　てか、死にかけたってのにドカン、ドカンって表現するってどんだけ無神経なのよ。花火じゃないんだから、あなた達爆発の現場にいたのよ！ちょっとは怖気づきなさいよ。この鈍感娘ども！

「どーせ、隠蔽されちゃうって」

「なんで、隠蔽しようとするんですか？」

「政府与党の幹部が陰で悪さしようとしてた。なんてスキャンダルでたら、与党がひっくり返っちゃうかも知れないでしょ」

「政治家なんて自分等の保身の事しか考えてないから、無かった事にするのが一番ってすぐ思うのよ」

「じゃあ、私達のした事は無駄だったってことですか？」

「これだけ多くの感染者を出したんだから全員の口を封じるなんて無理よ」

　私が何も答えないでいると、飛奈と天衣でどんどん話が進んでいってしまっていた。

　本当にこれで終わりでいいの？