第九話
「保乃ー、誰か来るのかよ?」
「今から被害者の女性が来るから、あなた達も一緒に話を聞きなさい。私達の動く理由が分かるはずだから」
敵の組織に攻撃を仕掛ける前に、私は梨名と天衣に被害者の声を聞かせたいと思い何人かの女性にここに来てもらうことになっていた。二人とも感情型のタイプだ。被害者の声を聞かないと本腰になれないだろうと思ったからだ。
怒りの感情は二人の能力をより一層高め、集中力も高めるだろう。相手は拳銃で武装している。何があるか分からない。中途半端な気持ちでは取り組んでほしくない。
3人に来てもらうはずだったが、2人しか訪ねてこなかった。2人とも一様に暗い顔をしている。少しでも元気になってくれればと思い、甘いスイーツを用意し食べてもらってから話を伺うことにした。
「はぁー、ホント100万あったら何できたんだろ、、」
一人目の女性は憔悴しきった感じだった。スイーツを食べている時も笑顔は見られなかった。講習を受けているときは、騙されているなど微塵も思っていなかったそうだ。それどころか意中の男性に、これを頑張ったら認めてもらえるかもとウキウキしながら講習を受けていたとか。
「今どき料理は女性がするものだなんていう人いないと思うんですけど、あの時はもう舞い上がっていたというか、浮かれていたというか、そこにつけ込まれたんだと思います」
そう言って自分の事を少しずつ話し始めた。その男性は第一印象から素敵な方で何でも無難にこなすような感じだったとか。ただ話を聞いていくと不器用なところがあり、細かい作業が苦手で料理が苦手だということだった。そのことを相談所に話したら料理の講習を勧められたとの事だった。
「最初はちょっと高いかなと思ったんですけど、初回は無料との事だったので参加してみたら有意義な講習だったので続けることにしたんです」
その講習はとても丁寧でしっかり指導してくれるし、何より彼との甘い生活も想像していたので、楽しくて仕方なかったそうだ。だいぶ自信がついたところでデートに誘いだし、手作り弁当を持参したそうだ。
「彼は大変喜んでくれたので、私は大満足でした」
でもその日のディナーの時、ポロッと言われたんだそうだ。『自己流の食べ方されるんですね』と、それで恥ずかしくなってそのことを相談したら、食事マナーの講習を勧められたとのことだ。
たくさん勉強したと思って自信満々で行ったら今度は『品質の良い食材とそうでない物の違いが分かってないみたいだね』と、言われまた相談し講習を受け、『ワインの銘柄をもう少し詳しくなった方がいいよ』と、言われ講習を受けを繰り返したとの事だった。
「その時点で相談所にお支払いした金額が100万を超えてきていたので、これは流石におかしいかもと思い調べ始めたら。その男性は他の女性にも同じようなことをしていることが分かりました。その方は講習へ上手く誘うように仕向けていたことが分かりました。そして、この方との甘い生活は最初から叶うはずのないものだったのだと分かり、私は絶望しました。お金を無駄に使い、時間を無駄に浪費しただけで、私には何も残りませんでした」
「サイってー、何が楽しくてそういうことするんですかね?」
「自分のために努力してくれているって分かってる女性を騙して、心痛まないのかよ。こういう奴マジ許せない!」
二人のスイッチが入ったみたいだ。やはり来てもらって良かった。
「でも料理の勉強はできたし、マナーも身に付いたんだし悪いことばかりでは無かったと思うよ。だから元気出して前を向いて行きましょう」
梨名にそう言われたその女性は幾分笑顔になっていた。
「料理教室に2万5千って高くないですか?」
「まあ取り扱う食材にもよるんじゃない。ありえない額ではないわよ」
「えっ!梨名あなた料理教室通ったことあるの?」
「えーーっ!梨名さん通ってたんですかー!卵も割れないのに?」
「昔よ昔、ケーキとか自分で作ってみたくてね。って!卵ぐらい割れるわー!」
「ケーキって誰に作ったのよ」
「いいでしょ、別に」
「えーーっ!梨名さんにもそういう時期があったんですねー!意外!ただの音楽バカだと思ってました」
「筋肉バカのお前に言われたくねーわ!」
そしてもう一人の女性からも話を聞くことにした。その女性も目が虚でため息ばかりついている感じで終始暗い表情だった。
相談所に紹介された男性は多趣味でお洒落な方だったそうだ。街ブラが好きで休日は飲食店の開拓や何かの専門店に入ってみたりして、話を聞いてみたりしているような方だったそうだ。
なので休日は家にいることはなく、お洒落にこだわりを持っているとの事だった。なので服装には気をつけて欲しいと言われたので、そのことを相談所に話したら講習を受けてみてはと言われたそうだ。
服装をだいぶ勉強したところでデートに誘ったら、服だけではなくヘアメイクも気にして欲しいと言われ講習を受け、ヘアメイクに自信がついたら今度はバックなどの小物にも気を使って欲しいと言われ、次に一つ一つの物はお洒落でもトータルコーディネイトが出来てないと言われ講習を受るを繰り返したそうだ。
「私も支払い額が100万を超えてしまっていました。でも真実を知るまでは本当に楽しかったんです。自分が彼の理想の自分にどんどん近づいていっている気がして、、」
「恋って恐ろしいですねー」
「でもその恋心を利用して、お金を巻き上げようとしている奴はもっと恐ろしいよね」
「殺るしかないですね」
お金を取り返す事と賠償金を支払わせることを約束し、女性達を帰宅させた。お金を取り返したところで、彼女達の心の傷は癒やされることはないだろう。間違いを起こさないことを祈るばかりだ。
「梨名、天衣、実はもう1人来てもらう予定だったのよ。ちょっと気になるわ。その娘の自宅に行ってみようか?」
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