第三章 悪徳繁殖業者をやっつけろ!

第一話

「可愛い、可愛い、可愛い、、」


 その日私は保乃先輩、梨名と共にとある動物保護施設を訪れていた。そこは主に小型犬を取り扱っている施設だった。中は保育園のような空間になっていて可愛らしいデザインとなっていた。家具は木製の物が多いようで、木目模様の棚やテーブル、イスが並んでいる。個別のケージも木製となっていた。

 訳がありこの施設に来ることになったワンちゃん達に、ストレスが極力かからないように考えられているのだろう。圧迫感が感じられない空間となっていた。

 ワンちゃん達はストレスを感じてない様子で走り回ったり、日向ぼっこをしたり、モフモフの絨毯に寝転んでいたり、クッションの上で丸まっていたりする。


 施設の人に案内されワンちゃん達がいるルームへ入ると、数匹のワンちゃんが駆け寄ってきて私達の周りを駆け回り出す。そして距離を詰め、甘えた感じでこちらに尻尾を振り鳴き声を上げた。


「可愛い、、」

「可愛い、、」


 保乃先輩と梨名は一番近くに来た小型犬に手を伸ばし摩り出した。2人ともさっきから表情が緩みっぱなしだ。『抱いてもいいんですか?』そう言って承諾をもらうと優しく抱きかかえさらに表情を緩ませた。そして次々集まってくるワンちゃんを抱きかかえては戻すを繰り返す。

 でもなぜかワンちゃん達は私の方には来ず、2人の方にばかり集まっていた。


「ワンちゃんにも好みがあるみたいだな」

 梨名がこっちを見ながら意地悪く笑った。


「うるさいわね」

 私はタイプじゃないのだろうか?


 しばらくすると1匹のワンちゃんが梨名の方へボールを咥え駆け寄ってきて、梨名を見つめながら尻尾を大きく振り出した。『ボール遊びしよう?』とでも言っているのだろうか?

 梨名はボールを取り芝生が敷き詰められた庭の方へ飛び出して行くと、ボールを放り投げてやった。それを見た数匹のワンちゃんが我先にとボール目掛け駆け出していく。


「うっそー、マジ可愛いんですけど!」


 拾ってきたワンちゃんに『よく出来たねー』っと言いながら顔を撫でてあげた後、ボールをまた放り投げた。それを見てまた一目散に駆け出していく。


「可愛い、ホント可愛い、それで飛奈、今日はなんでここに来たの?」

「保護施設の現状を見たくてね」


「あなたにそんな慈しみの心があったなんて驚きだわ」

「私じゃなくて華鈴に行けって言われたのよ」


「あっ、そういうこと?」


 ワンちゃんに夢中になっている2人は放っておくことにして、私は施設の人に現状を聞くことにした。ここは小型犬がメインなのでほぼ引き取り手が見つかるが、大型犬になると難しくなり、特に年輩犬や病気を患ってる犬となるとほぼ引き取り手は無くなってしまうらしい。

 今でも全国で年間4000頭のワンちゃんが殺処分されているのが現状だとか、なんとか殺処分されるワンちゃんを0にしたいが財源と施設のスペースから考えると難しい問題なのだそうだ。


「それで私たちに面会したいって人はどんな人なの?」


 私がそう聞くと施設の人は私に会いたいって言っている人のことをポツリ、ポツリ話し出した。その人は動物愛護に熱心な方で自分の残りの人生全て、老犬や疾患持ちの犬の世話に捧げたい人らしい。

 よくここの愛護団体から老犬や疾患もちの犬を引き取っては最後を看取る活動をしているとか。もう自分一人で食事が出来なくなっていたり、排泄ができなくなってしまったりして、手に負えなくなり飼い主の身勝手な理由で手放されたワンちゃん達を少しでも暖かい環境で看取ってあげたいと考えている方らしい。


「凄い立派な方なのですね」


 私達の会話に保乃先輩も興味を示したようで近くに寄ってきて同じテーブルに着いた。腕の中には1匹のポメラニアンが抱かれていた。梨名はまだ外でキャッキャ、キャッキャしているようだ。

 なかなか出来るような事ではない、そんな活動をされている方が私達に面会したいとは如何なる理由なのだろうか?そう思ったが詳細は施設の人は分からないとのことだった。


「飛奈ー、どの子か引き取るの?」


 髪から顔から服の複数箇所に、芝生が張り付いている姿をした梨名が話しかけてきた。お前はどんな遊びをしてたんだよ!


「ダメよ。私たちに何かあったら残されたこの子達はどうなるのよ?」

「そっかー、そうだよね、、」


「またあなたは、、そんな悲しいこと言わないでよ」


 保乃先輩はそう咎めてきたが、活動上何があるか分からない、ここにいる子達は全員一度は辛い目に遭っているはず、もう二度とそんな思いはして欲しくない。温かい家庭に迎え入れて貰い幸せになってもらいたい。


「全く、あなた今までどんな遊びしてたのよ」

 そう言いながら梨名に近づくと、あちこちに付いている芝生を叩き落としてやった。


 しばらくすると一人の女性が施設の人に案内されこちらに近づいて来て、私達に向かって深々と頭を下げてきた。気品の感じられる、表情の柔らかい、白髪の似合う女性だった。

 その方は込み入った話になるので、どこか人目を避けられる場所でお話しがしたい、と言ってきたので私達は自分達のマンションに案内することにした。

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