第二話

「かりーーん、戻ったよー」


 そう声をかけると華鈴は玄関まで出て来て、白髪の女性に深々と頭をさげる。天衣も出てきてペコリとしていた。スリッパを用意し中に案内してリビングのソファーに座らせ、お茶とお茶菓子を用意し差し出す。これに丁寧にお礼を返すと簡単に自己紹介し世間話を始めた。本題は言いづらいことなのだろうか?


「じゃあ、ご主人はもう?」

「はい、一人暮らしを満喫しております」


 その方は佐々木と名乗られた。お子さんには恵まれなかったそうで昔から沢山のワンちゃんの飼育をされてきたとか。沢山のワンちゃんとの出会いと別れがあり現在に至るそうだ。

 数年前にご主人が他界されてからは、自分もいつ何があるか分からないからと若いワンちゃんを引き取るのは控えるようにし、老犬または疾患のある犬の最後を看取る活動を始めることにしたとか。


「普通はできない事ですよね?なぜまたそんな活動を?」


「どんな理由があろうとも、最後持て余して投げ出してしまうなど飼い主失格です。手放された子がどんな思いでいるかと考えると辛抱たまらなくて、、最後を看取るのは本当に辛いことですが、一時でも安らぎを感じてくれればいいなと思い活動続けています」


「はぁー、世の中には天衣みたいのもいれば、聖母様のような方もいるもんなんだなー」


「梨名さん?それ、私はどういう意味で入ってるんですか?」


「悪魔とか、鬼とか、化け物とか?」

「また私批判ですかー!?」


「コラコラ、来客中だぞ、戯れ合うなら向こう行ってなさい」


「なんだよ!陰湿女」

「そうだぞ、日陰が似合うナメクジ女」


「なんだと!このやろー」



「すみません、アホは気にしないでください、それで私達に何か相談したい事でもあるんですか?」


 私がそう尋ねると鞄の中に手を入れ、一つの写真をテーブルに置いてきた。そこには生後数ヶ月と思われるトイプードルの姿が写っていた。ぬいぐるみのように可愛い、つぶらな瞳をしたトイプードルだった。佐々木さんはある日、ネットサーフィンをしていた時のことでしたと前置きしてから話し始めた、、。


「通常、トイプードルは30万強で販売されているのですが、この子は10万程で売られていました。見た感じ毛並みもいいですし、カラーも人気のレッドです。こういう場合は大体何か疾患を抱えているかトラブルを抱えている場合が多いんです。私は慌ててサイトに表示されているブリーダーに問い合わせてみました。すると特に何も問題ないというのです」


「でも向こうの口調ぶりからして何かおかしい、と感じた私はその子に面会してから購入を決めたいと言いました。そうしたら入金して貰えばすぐに送るというのです。犬は物ではありません。その態度に私はますますそのブリーダーの事を怪しみました」


「何度かの口論の末、しばらく間があった後、承諾が下りその子に会いに行くこととなりました。そして現地に到着して、そのブリーダーの敷地に入った瞬間私は絶句しました。獣臭と糞尿の匂いが辺りに充満していたのです」


「長野県で起こった事件や八王子の事件のことを知っていた私は、ここでも同じことが起きているのではないかと思い、怒りで体の震えが止まらなくなりました」


「しばらくするとブリーダーと思われる人が現れ、中の方に案内されました。そのままついて行くと大きなプレハブ小屋が2つ見えてきました。そこからは多くのワンちゃんの鳴き声が聞こえてきています。もう間違いありません。繁殖させるだけが目的の動物愛護の精神などまるで持ち合わせていない、悪徳繁殖業者です」


「私はプレハブ小屋の隣にある柵で覆われた、芝生が敷かれた空間の方へ案内されていきました。そしてそこにこの子がいました。もう本当に可愛かったです。もう買い取ると決めたのですが、気になるのはプレハブの中です」


「私はこの子を購入するにあたり、この子の親がどんな子か見せてくれとお願いしました。購入者として当然の権利です。当然拒否してきます。でもプレハブの中が見たかった私は食い下がりました。そうしたら強面の男性が数人出てきて私を囲み脅迫してきました。私は引き下がるしかありませんでした。でもこの子だけはここから救出したいと思い、即金で10万を支払いなんとか連れ出しました」


「連れて帰ってから直ぐ、この子は嘔吐と下痢を繰り返すようになりました。いても立ってもいられず、すぐ病院に連れて行きました。でも原因が分からず仕舞いです。病院の先生からブリーダーに何か原因になるようなことはなかったか問い合わせてみて、と言われ問い合わせたら。こっちでは普通に元気にしていたと突っぱねられました。それから毎日色々な病院に行きましたが原因が分からず、結局他界することとなりました」


「私は悔しくて悔しくて仕方ありません。金儲けのために劣悪な環境で繁殖させるためだけにワンちゃんを飼育し、生まれてきた子供は健康体なら高額でペットショップに売り捌き、問題のある子はネット販売で安く売り叩く、そんな輩がのうのうとこの国で暮らしているのかと思うと腹立って仕方ありません」


「保健所に通報しても指導したと繰り返し言うだけで何もしてくれません」


「人間を儲けさせる為だけに生き、不要になったら処分する。そんなワンちゃんを救ってください。礼金ならいくらでも払います。どうか、どうかよろしくお願いします」


「こりゃー、無理だわ、死刑だね」

 天衣は戯れあっていた時とは違う鋭い目つきで言った。


「私もこういうヤツ無理、死刑でいいんじゃない?」

 梨名も目を血走らせそう言ってきた。


 保乃先輩の方に視線を向けると2人と同意見なのか頷いてきた。


「華鈴はどう思う?」


「いいんじゃない、死刑で」

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