第十三話

 しばらく進んでいると銃声が聞こえてきた。


「華鈴、何が起きているの?」


 3人が奥に進んで2人が梨名と天衣を待ち伏せしてきたと伝えてきた。大丈夫なの?と聞くと大丈夫でしょ。と軽く言ってきたので状況はそれほど深刻ではないのかもと思い先に進むことにした。


 そのまま身を屈めながら壁沿いを進むと怒号が聞こえてきた。声のする方へゆっくり近づいていく。近くまで来たところで周りを見渡す。この周辺には壁の中を覗けそうなところは見られなかった。

 上を見るとガラスが嵌められていない窓枠だけの窓が並んでいた。隣の建物に上がれば中を覗けるかもと思い、そちらへと向かう。その間も石井康静のものと思われる怒号が続いていた。


「ふふふ」


 保乃先輩が笑い声を上げたようだったので、そちらに視線を向けるとクスクスと笑いを堪えられないような感じになっていた。


「ごめん、ごめん、私達もあなた達に追い詰められていた時、大沢拓郎に怒鳴られていたなぁと思ったら笑えてきちゃって」


 本当に政治家なんてクソヤローばっかりだ。自分の身を守ろうとしている人を怒鳴り散らすなんて、自分中心に世界が回ってると思っている奴ばっかりだ。まあだから違法薬物を売り捌いて、自分の活動資金を得ようと腐った考えができるんだろうけど。

 そのまま進むと物陰に隠れ外と連絡を取ろうと必死になっているSPの姿が見えてきた。あまりにも姿がはっきり見えてしまったので思わず身を伏せてしまう。

 上の窓から丸見えになってしまっているのに気がついていないのだろうか?これでは対象者の警護になっていないのではないかと思うが、怒号を浴びせられ冷静さを欠いてしまっているのだろうか?


「ふふふ。私もああやって外と連絡取ろうと必死になってたっけ、バカね無理なのに」

 再び保乃先輩は笑い声を上げた。


「華鈴の妨害工作は完璧だからね」





「保乃先輩ならこの位置からでも撃ち殺せるよね」


 そう言って飛奈は私に拳銃を差し出してきた。ここから対象者までの距離は30メートルもないだろう。向こうはこちらに全然気が付いていない。よほど焦っているのだろう、窓の奥から狙われているなど気が付いていないようだ。警護者として失格だ。

 私達は彼らのいる1階を見下ろせる位置にいて、向こうは全く気が付いていない。狙いを定める時間はあるだろう。しかも十分、的の中心に当てられる距離にいる。ここから銃殺するのは容易いことだろう。


「丈夫なチョッキ着ているかもしれないから、ちゃんと頭狙ってね」


 今後飛奈と活動を共に出来るかのテストなのだろうか?SPを排除してから石井康静の暗殺をするのが順当だろう。逆であればきっと反撃されてしまうかもしれない。今の有利な状況から考えると、抵抗される前に銃殺し反撃される可能性を潰してから暗殺するのが順当だろう。


 あなたに出来るの?元仲間を殺す覚悟があなたにあるの?


 差し出された拳銃を見てそう言っているように思えた。でも私の覚悟はもう決まっている。彼らにも家族がいて、悲しませてしまう人がいるかもしれない。でもあいつが生きている限り悲しむ人は増える一方。もうあんな思いをさせる人を増やさないためにも私は悪魔になる。あんな奴の暗殺を邪魔立てするなら、、。


『ダン、ダン』と2発発射し両方とも2人のSPのこめかみに命中させた。おそらく即死だろう。それを見た石井康静は悲鳴を上げ腰を抜かし地面に倒れ込み、奇声を発しながら醜く後退しだした。


 近くの階段を降りて石井康静に近づいていく、、。


「貴様、な、何者なんだ?た、助けてくれ?私がいったい何をしたというんだ」

「薬物を横流しにした報いだよ」


 そういうと引き攣っていた顔はみるみる青ざめていった。再び醜い屁理屈を並べ命乞いしだし、二度としない、もう二度としないと誓う。だから助けてくれとか言ってきた。


「今更おせーんだよ!もう消えてしまった命は戻ってこねーし、お前も消えろ」


「将来ある若者たちが道を外す元凶を作ったお前が何を言う?お前はもう生きてる価値なんてないんだよ」


 そう言って飛奈は私が撃とうとしているのを制し、容赦なく銃弾を撃ちつけた。


 達成感と虚無感が同時に襲ってきた。これであの娘の魂は報われただろうか?原因となった人間、元凶となった人間は葬った。報われているといいな、そう思った。



「ゲホゲホゲホ、、」


「!!」


「まだ生きてるの?」


 先ほど、こめかみを打ち抜いたはずのSPがむせ返っているので驚きの表情を向ける。


「保乃先輩、銃弾見てください?」


 飛奈にそう言われ銃から弾を取り出すと、、。


「ゴム弾?」


「死ぬほど痛かったでしょうけど、死んではいないみたいね」


「ふふ。余計な気遣いしやがって」


「それ手に入れるの大変だったんだぞって、華鈴に怒られたんですからね」

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