第十二話

「なんとか振り切れんのか?」

「ダメです。中に避難しましょう」


「応援は呼べんのか?」

「ダメです。携帯も無線も通じません」


「この役立たず共が!」


 石井康静を他の者達から引き離すことに成功した私達は、数名の身辺警護者と共に廃工場の中へと追い詰めていった。こちらの狙い通りになっているとも知らず廃工場の敷地内の奥へどんどん入り込んでいく。



「全くあんな奴の警護に税金が使われているなんて信じられないわ。SPは4人よ。注意してね」

「了解」


 状況報告とともに華鈴の溜息混じりの声が聞こえてきた。自分の立場を利用し外遊先から違法薬物を持ち込もうとしている。そんな奴の身の安全確保のために国民の血税が使われている。そんなふざけた話はない。

 適度なところで車両に仕掛けておいた発煙筒を作動させる。車からモクモクと煙が上がり出し、車内が慌てふためきだしたのが分かった。車をゆっくり停車させると近くのドアから建物内へ侵入していく。

 建物内に入り身を隠したつもりなのだろうが、こちらは赤外線センサーを準備している。向こうの位置など手に取るように分かる。無駄な行為だ。

 赤外線センサーを搭載したドローンを舞い上がらせ、反応のある方向へ向かわせる。5人は固まって建物内の奥へと進んでいるようだ。


「リーダーどうするんですかー?」

「天衣と梨名はそのまま後ろから追いかけて行って、私と保乃先輩はまわり込むから」


「リーダー、コケないでくださいね」

「なんでよ!コケないわよ!」


「飛奈、足引っ張るなよ」

「引っ張らないわよ!」


「あなた達こそ、中で迷子にならないようにね」


「それは天衣次第だな」

「こっちから音がするからって向かって、行き止まりに出たのは梨名さんじゃないですかー!」


「コラ!早くしないと逃げちゃうわよ」



 こんな状況でもいつも通りに戯れ合いはじめた3人は、華鈴さんから釘を刺された。華鈴さんから3人が暴走したら止めて欲しいと言われていたが、もしかしたらこの状況を止めることも含まれているのか?と思った。


「何笑ってるんですか?保乃先輩、余裕ですね」

「笑わせたのはあなた達でしょ。じゃあ行くわよ」


 そう言って私は走り出した。飛奈は2人に手を振った後、私を追いかけ走り出した。




「じゃあ、私達も行こっか」

「はい」


 華鈴から全員奥に進んで行ったと聞いているので躊躇なくドアを開ける。ドアを開けるとすぐそこは事務所になっているようで、事務机がいくつか並んでいた。その部屋を抜け、奥にあったドアを開けるとガランとした空間が広がった。あちこちに廃材が転がり、天井は所々剥がれてきていて、壁際には錆びれ果てた機械らしきものが並んでいる。そこを足元に注意しながら進んで行く。


「どこまで行っちゃったんだよ、アイツ等?」

「あー、2人ともストップ」


 しばらく進むと無線からそんな声が聞こえてきた。どうやら向こうは二手に別れたらしいとのことだった。3人が奥に進み、2人が追ってくる者を待ち伏せているようだと連絡が入る。奥に小部屋があって、そこで2人が身を潜めているらしい。

 天衣と共に物陰に身を隠しながらゆっくり、ゆっくり進んでいく。だいぶ接近したところで銃を構えた。あなた達は知らないでしょうけど、いくら身を隠し息を潜めても私にはあなた達の位置が手に取るように分かるのよ。


『ダン、ダン、ダン、ダン』

 息を潜めている場所に向かって2発ずつ容赦なく銃弾を発射した。


 中から大きな物音と共に男性の声が響き渡った。銃弾は壁を貫通しなかったようだ。中にいた2人とも無事のようでお互いに声を掛け合っている。


「相変わらず下手くそですねー、この距離で外したんですか?」

 状況を分かってない天衣がこちらに白い目を向ける。


「違うわよ!壁が硬くて貫通しなかったのよ!」

「本当ですかー?」


「!!伏せてー」


 私は向こうの動きを察知しそう叫んだ、その後反撃の銃弾がこちらに降り注ぐ。


「天衣、大丈夫?」

「あのヤロー、警察のくせに発砲しやがって上司に言い付けるぞ!」


 天衣は憎まれ口を叩けるほど元気のようだ、急な銃撃を受けたが特になんともないようなのでホッと胸を撫で下ろす。


「こっちから撃ったんだから、そりゃー、撃ってくるわよ」


 何度か銃撃を受けた後、隙を見て反撃したが効果は得られなかった。


「梨名さんあと何発残ってますか?」

「私も弾切れー」


「どうするんですかー?」

「どうするって殺るしかないでしょ?」


「違いますよ!華鈴さんにまた怒られますよ!」


「そっち?そうだねー、何発無駄弾撃ってるのよってまた言われちゃうねー、って違うでしょ。アイツ等より華鈴の方が怖いんかい!」


「そりゃそうでしょ、あんな奴らより100倍華鈴さんの方が怖いですよ」


「まあそうか、でもその前にこの状況なんとかしなきゃね。私が引き付けるから、あなたは隙を窺って攻撃して」


「分かりました」




 梨名さんは手を挙げ降参のポーズをし、銃を高く放り投げた。私も同じようにし物陰から出て梨名さんの後に続く。『弾切れなので降参します』と言うと向こうも警戒しながらゆっくりこちらに姿を現してきた。

 銃口を向けたまま周りに仲間がいないか警戒し、いないことを確認すると『貴様ら何でこんなことしたんだ!』やら『こんなことして許されると思っているのか!』やら色々怒号が飛んできた。


「たまたま落ちていた拳銃を撃ってみたくなっちゃったんですー」


 人を小馬鹿にしたような甘い声と甘い仕草をして、梨名さんは得意の相手の感情を逆撫でするような行動をとる。その言葉と態度に怒りの感情を露わにし、さらに罵声を浴びせてきた。

 拳銃を突きつけ梨名さんに詰め寄り掴みかかろうとした時、私から注意が逸れたのを確認し行動を起こした。


 二人並んで拳銃を突き出している腕を左足で薙ぎ払い、拳銃を弾き飛ばすとそのまま回転し左足を地につけ、その左足を軸にし相手に背後を見せたまま右足で顎を踵で蹴り上げた。

 蹴り上げられたSPは血を吹き出し、弾き上げられ意識を失い膝から崩れ落ちる。振り上げた足を素早く地につけるとそのまま回転し左足の甲をもう一人のSPの後頭部に打ち付けた。そのまま前のめりになり意識を失いその場に倒れ込んだ。


「よし!」

 SP2人を瞬殺し軽くガッツポーズをして梨名さんの方に視線を向けた。


「なんで!引いてるんですかー?」

「なんか、、凄すぎて引くんですけど、、」


「梨名さんが殺れって言ったんじゃないですか!やらしといて引くとか酷いですよー」


「マジ無理、私の半径3メートル以内に入ってこないで」

「ちょっと、それは酷くないですかー!」


「酷くないだろ、お前がいつも飛奈に言ってるセリフだろーが」

「それとこれとは別じゃないですかー」

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