第九話

 日が沈み辺りが暗くなると作戦はすぐ実行となった。


「もう行くの?寝静まってからにした方がいいんじゃないの?」


 そう言うといくら悪人だからといって、寝ているところに銃弾を撃ち込むのは抵抗があるとの事だった。自分がした事に罪悪感を覚えさせ、顔を恐怖で歪ませないと喰い物にされた人達が浮かばれない。そう返された。

 そういうものなのかと思ったが確かに無抵抗な人間に銃弾を向けるのは抵抗がある。殺戮を楽しむ訳ではない。あくまで世直しの粛清。彼女達なりのルールはあるようだ。

 通信手段を遮断すると中から『スマホが使えなくなったぞ』などの声が響き渡る。その時は通信障害が起きたくらいにしか考えていなかったのだろう。しばらくすると静かになり談笑する声が聞こえるようになってきた。そして電気が消えると流石に異変を感じ右往左往し出した。


「中にいるのは17人よ油断しないでね」

 華鈴から無線でそう指示が入った。


「了解」


「2人ドアに向かって来る」


 私達は電気が消えると素早く玄関前に移動する。玄関前に待機し中の様子を伺っていると梨名がそう声を上げた。私は飛奈と目を合わせる。ドアに向かって銃を構え息を殺す。

 ドアが開くと同時に2人から血飛沫が舞い上がった。撃ったのは飛奈だった。2人とも1発で心臓を撃ち抜かれ即死と思われる。

 素早く中に入るとドアを閉め外からの明かりを遮断する。音を聞きつけた男達が何人か部屋から顔を出してきた、全員スマホを懐中電灯がわりにしている。

 そこへ飛奈が銃弾を容赦なく発射した。スマホの明かりが自分の位置を正確に教えてくれているなど思いもしなかったのだろう。その光景を見てあの日、研究室で梨名を追い詰めた時、懐中電灯を不用意に点けてしまったのが大間違いだったことが実感できた。それと同時に彼女が暗闇の戦闘に慣れていた理由も分かった。

 倒れ込む2人に紛れ天衣が部屋の中に飛び込んで行くと、次々と男達の悲鳴が聞こえてきた。私が部屋に飛び込んだ時にはもう既にそこには数人の男性が転がっていた。一人を残して全員生き絶えていた。


 唯一残った男性は足の骨を砕かれたようで、変な方向に足が曲がっていた。顔を見ると松木だった。あの暗闇の中で天衣は一瞬で松木を判別し、一瞬で男4人を殺ったようだった。一瞬の出来事だった。一瞬でこの部屋まで制圧してしまった。男が十人近くいたというのに、、。


「向こうから3人走ってくる」


 梨名がそう言うので私は梨名の後ろについて行く。角を曲がり現れた影を梨名は躊躇する事なく銃撃した。しかしそのうち2人が踠き苦しむ声を上げたので、私は止めの銃弾を浴びせた。

 それを見た梨名が私の方を向いて『ごめんね、下手くそで』と声を上げる。そこへ華鈴から音声が入った。


「後5人いるわよ。3人は固まっていて、2人は部屋の中央に1人いて、1人は壁に身をつけ、ドアの向こうの様子を窺っているみたい。中央にいる1人がここの親玉じゃないかな?」


「了解」


「何で分かるのよ?」

「熱センサーよ」


「じゃあ、保乃と私で3人を殺りに行くわ」

 梨名がそう言う。


「了解」

 飛奈はそう言うと天衣に松木を連れてくるよう指示する。


 3人が潜んでいると思われる部屋の前に到着すると梨名は3人に向かって容赦なく銃弾を浴びせた。3人の息遣い、心音が聞こえる梨名にとって相手の場所を特定するのは容易い。それに対し向こう側はこちらの位置を知る術はない。暗闇からいきなり発砲され、抵抗する間もなく息絶えたようだ。


「今度は全員倒せたみたい」


 梨名はそう言ってこちらに笑顔を向けてきた。こんな可愛い顔をした娘がこんな残酷な事を躊躇する事なくしていることに疑念を抱くが、今はそれは考えないようにしようと思った。


「あれだけ撃てばそりゃー当たるでしょ」

「そう?撃ちすぎだったかな」


 全員の死亡を確認すると飛奈の方に向かった。


 天衣はドアに松木を叩きつけると、飛び蹴りしドアを破壊しドアごと松木を中に蹴り込んだ。それに驚いたドア付近にいた男は飛び込んできた男の方に視線を移す。銃口を向ける。松木だとわかると引き金を引くのを止める。

 次の瞬間、銃が蹴り上げられ、下から掌打が飛んできて顎を突き上げられた。そこで意識を失い、さらに飛んできた回し蹴りが後頭部に入りそこで絶命した。

 その隙に飛奈は部屋に飛び込み、中の者を銃で威嚇し動きを封じる。中にいた白い顎ひげと口ひげをきれいに整えている老年の男性は、降参の意思表示のため手を挙げるしかなかった。そこへ私と梨名も合流した。


「電気点けるわよ、暗視スコープ外して」

 制圧したことが分かったのだろう。華鈴からそう指示が来た。


 天衣は松木に写真を見せ『この娘知っているな』と問い詰めていた。松木は右足をへし折られ、肋骨も数本折られ息絶え絶えの状態になっている。


「なぜ殺した?」


 その質問に答えないでいたら、天衣は容赦なく右手人差し指をへし折った。声にならない醜い悲鳴が上がる。続けて同じ質問をする。答えるまで少し間があったので今度は中指をへし折った。


「分かった、分かったよー、答えるから、も、もう止めてくれ、よ、、」


 切れ切れの声でそう答えると詳細を説明しだした。詳細は大体予想した通りだった。カモにならないと分かると口封じのため殺したとのことだ。遺体は適当な道路に捨てた。何でそんなことして大丈夫なんだと問い詰めると、警察に協力者がいるから大丈夫なんだとか何とか全部吐き出していた。

 こんな感じで一体何人の人が交通事故を装われて殺害されたのだろうか、その協力者の名前を言えというとそれは知らない、そこのマスターが知っているのでそっちに聞いてくれと言っていた。コイツを締め上げてももう何も出ないだろうと思った私達は。松木に銃口を向ける、、。止めてくれ、色々喋っただろ見逃してくれと命乞いをしてきたが、、。


「お前に命を奪われた人達は、もっと無念の思いを抱えて死んでいったんだよ」

 そう言って天衣は銃弾を放った、、。男の悲鳴が響き渡る。


「あっ!ごめん、ごめん、私、銃を撃つの下手くそでさあ、急所を外しちゃったね。痛かった?ごめんね、今度は外さないから」

 と言いつつまた急所を外していた。絶対わざとでしょ。そう思った。


「あー、ムカつく、、私の怒りはまだ収まらない、、」

 そう言って、親玉と思われる人間を睨みつけた。


 どれだけの恐怖を感じたのだろう、どれだけ自分のしてきたことに後悔を感じたのだろう。白髭の男は顔面蒼白になり瞳孔は開き、失禁し動けなくなっていた。


「マスターさん全部話してくれるわよね?話してくれたら助けてあげるわよ」

 飛奈にそう言われ全て話してくれた。


 その後飛奈は分かったと言ってその場を離れる。その状況に一瞬安堵したような表情になったが、天衣が銃を持ち近づいていくと、顔を再び恐怖で引き攣らせていた。


「全部話したら助けるって言ったじゃないかー」


「私はそんな約束してないわよ」

 そう言うと先ほどと同じように散々苦しめるだけ苦しめて葬っていた。

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