第七話

「ここで考えていてもしょうがないわ。現場に行って調べるしかないわね」

 そう言って保乃と梨名は出かけていった。


「なんかスイッチ入っちゃったみたいですね?」

「まあ昨日普通に元気にしていた人が、亡くなったって分かったら原因探りたくもなるだろうけど、今回の件と繋がるかしら?」


「じゃあ、あなた達は取り敢えず、この車の持ち主に会いに行ってちょうだい」

「あいよー」

「了解です」



「ここね。あの娘が入って行ったビルは」


 その建物内で何があったのか原因を探るために、保乃と梨名は華鈴に言われた場所を探し当て現地を訪れていた。そこには4階建ての古いビルがあり、地下へと階段が伸びている。

 女性の姿がカメラの映像から消えた辺りから考えて地下への階段に進んだと考えられるが、近くにある看板にはアイドルカフェと書いてあった。


「アイドルカフェ?」


 ゆっくり降りて行き突き当たりのドアを開ける。『すいませーん』と声をかけてみたが返事は無かった。人の気配も感じられない。中に入ると受付と思われるカウンターがありもう一度声をかけてみたが反応は無かった。


「奥に誰かいるみたい」


 梨名がそう言ったのでカウンター脇の通路を進み、現れた扉の取手に手を掛ける。扉は半開きになっていて、表面に付いているポスターがユラユラ揺れていた。空調が動いているのだろうか?

 中を覗き再び声をかけるが返事は無かった。照明が点いているので誰かがいそうだがまるで気配は感じられないが、、。


「誰かいるよ、息遣いが聞こえる」


 梨名がそう言ったので注意しながら中に入る。中にはL字型のソファーがいくつも並んでいた。奥は簡易的なステージになっているようで他の床より一段高くなっている。脇に目を向けると、バーカウンターになっているようで奥の棚にはボトルがたくさん並んでいた。

 そのカウンター席の一番奥で一人の女性が眠り込んでいた。ここのママさんだろうか?右手をアルコールが半分入ったグラスに手を掛けながら眠っていた。泣きながら眠ってしまったのだろうか?瞳からいくつもの涙が流れた筋が伸びている。床には数本の空ボトルが転がっていた。

 優しく声をかけ起こすと、ヨダレを拭いながら『ここはもう店仕舞いだよ』と刺々しい口調で言ってきて私達を追い返そうとしてきた。そう言われてもこのまま帰る訳には行かないので、あの娘の事知らないか尋ねてみると意外な反応が返ってきた。


「あの娘を知ってるのかい?あの娘の友達かい?」


 簡単に事情を説明するとママさんは協力的になり色々話してくれた。ここはショーパブのようなところで従業員は基本お客さんの席につき接客し、2時間おきにアイドルライブと称した従業員達の30分程度の歌とダンスのショーがあり、お客さんを楽しませているとのことだ。その娘もここで働いていた従業員の娘らしい。


「今は寂れているけどね。ここも一応流行っていたんだよ。でも一番人気の子が他のオーディションに受かたってことで辞めちゃってね。お客さん激減しちゃって残った子達は皆んな今後の不安抱えていたんだよ。あの娘はそこにつけ込まれて薬を覚えさせられちゃってねー。でもあの娘はまたステージに立ちたいとの思いで、必死で断ち切ったんだよ。必死の思いで断ち切ったんだよ。でもまた悪い奴等が現れたみたいで、、あんな事になっちゃって、、」


「もう私はあの娘が不憫で不憫でならないよ。もう仕事する気にならなくてさ、このままアルコール中毒になって死のうかと思ってたんだけど、なかなか死ねないもんなんだね、、」


 張り裂けそうな気持ちを抑え、、。


「ちなみにこの男性知っていますか?」

 そう言って事故現場にその娘を放置した男の画像を見せた。


「ちくしょー、松木の奴か!」


 男の顔を見ると知った顔だったのか怒りの声を上げた。どこに住んでるか分かりますかと尋ねると、、。


「行くのかい?止めておきな、コイツは組織に所属している人間だよ!」

 そう言われた、、。


 私達は松木という奴の分かるだけの情報を聞いて、お礼を言ってビルを後にした。外に出ると、、。


「保乃、、私もうダメ、松木殺す」


 怒りで梨名は震えていた、、。その気持ちは分かるが、ここは何とか収めるよう説得する。せめて飛奈達に報告するまで我慢するよう説得する。個人となればいざ知らず組織となればそう簡単に行く問題とは思えない。

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