第六話

「何か収穫あった?」

 部屋に戻るなり華鈴はそう話しかけてきた。


「凄かったですよ。多分薬物中毒者だったんでしょうけど。ホント通常の人間とは思えない状態になってて、ホント薬物って怖いですね。なんなの蔓延させちゃダメですよ」


「いやー、あれはホントありえなかったね。ってか、お前は私達に女子高生の格好させておいてここでのんびりゲームしてたのかよ!」

 梨名の指摘に華鈴は慌てて画面を隠すが既に遅かった。


「梨名さん大変です!レアアイテム入手してますよ!」


「何ー!こんなデータ消してやる!」


「コラー、お前らー!」



「保乃先輩どうします?」

 戯れあっている3人を傍目に飛奈はそう声を掛けた。


「あんなの見せられたら薬物は絶対ダメって事が分かったわ。今すぐにでも止めなくちゃならない。殺るしかないでしょ」



「ちょっと、ちょっと、あなた達何してるの?」

「何って、着替えて寝るんですけど?」


「えーっ!着替えちゃうのー!お姉さん悲しい」


 真面目な顔をしてると思っていたら、制服を脱ぎ始めた二人に駆け寄り着替えるなら先に写真撮らせてと言い出した。全くこの娘達は真面目に将来のこと考えているのか、適当なのかよく分からないとこがある。

 でも応援したいと思った。自分の利益の為なら人を病気にさせたり、薬物中毒にさせるような連中生かしておく価値はない。私もそう思う。



「あれ?これって昨日話しかけてきた娘じゃない?」

 

 翌朝、華鈴がデータを整理しているのを、後ろから覗いていた梨名は一つの画像を指さすと保乃にこの画像を見るよう促してきた。


「本当だ!どうしたの?な、亡くなったのこの娘!!」

 昨日の夜話しかけて来た女性が遺体となっている姿に唖然とする。


「原因は何なの?」

「待って、今調べて見てみるから」


 そう言ってパソコンを操作すると、薬物中毒による意識混濁の影響からの交通事故死と書いてあった。道路に足取りがおぼつかない状態で進入してきて、そこへ走り込んできた乗用車と衝突し死亡したと記載がある。


「あの娘薬物使用しているようには見えなかったけど、、薬物依存状態だったの?そんなふうにはとても見えなかったけど?」


 不思議がる保乃の言葉を聞いた華鈴は再びパソコンを素早く操作しだし、一つの画面を表示するとマジマジと眺めだし表情を曇らせた。


「うーん、、」

「どうしたんだよ?」


「何か変ね、、」

「だから何がだよ?」


 梨名は相変わらずの気短さんなので急かすように話しかける。華鈴はそんな事はお構いなしにじっくり考察してから話しだした。


「体内残存量から考えて、ここ最近は止めていたんじゃないかしら?」

「だからそれの何が変なんだよ?」


「通院履歴もなければ、治療履歴もない、自分で断ち切ったみたいね」

「だからそれの何が変なんだよ?」


「前にも言ったでしょ。薬物依存は自分で断ち切ることができないから問題なのよ。この娘、自分一人で断ち切ったのかしら?」


「何があったか分からないけど、理由があってきっと死ぬ思いで断ち切ったんでしょうね、、」

 保乃は沈痛な面持ちでそう言った。


「何があの娘をそうさせたのかしら?」

「気になる?」


「調べられるの?」


「今の時代街中に監視カメラがあるんだから、あなた達と別れた後この子がどうなったか調べるのなんて簡単よ」


 そう言って華鈴さんはまたパソコンを操作し出した。でも今回はすぐには無理だから少し時間を頂戴と言ってきた。私はその言葉を聞くと頷き、部屋を後にした。


 風に当たりたくて屋上へ向かう。屋上に出ると眼下には湾岸エリアが広がっていて幾つかの観光船が行き交っているのが見える。モノレール、沢山の乗用車、行き交う人々この街に住む人達の何人が悲しみを抱え生きているのだろうか?

 昨日普通に話しかけてきた娘があの後亡くなっていたなんて信じられない、あの娘はあの時どんな思いを抱え生きていたのだろうか、、。



「おーい、保乃ー、華鈴が呼んでるぞー」

 屋上で佇んでいた私を梨名が呼びに来た。


「お前、大丈夫なのかよ?」

「えっ!」


 梨名のその言葉に思わず表情を覗き込む。確かこの娘は耳が異常発達し、人の心拍なんかも聞こえると言っていた事を思い出す。ならば隠し事をしても無駄だなと思い全てを話すことにした。


「あんな事があったでしょ。だからもう後悔が無いように生きようと思っていたの、、でも、、いきなり出鼻を挫かれたって感じ、もしあの時、私が警察ですって言っていたらあの娘はどうなっていたんだろう、、死ななくて済んだのかもしれないと思うだけで胸がはち切れそうで、、」


「なんか、上手く言えないけど、、お前のせいじゃないだろ、悪いのは薬物を蔓延させてる奴等のせいなんだし、、」


「分かってるわ、そんな奴等を殺るのが、あの娘の供養になるっていうんでしょ。ありがとう」


 なんだか初対面の時とは全然違う温かみを感じた。初対面の時が特に特殊だったのかもしれないが、何かいい友達になれそう、そう思った。



 部屋に戻ると早々に華鈴は話し始めた。取り敢えず分かった事は、あなた達と別れた後ある建物に入っていく姿が映っていた、でもその建物内にはカメラは無いようで建物内で何が起きたかは分からない。でも建物から出てきた様子が映っていないとの事。

 それで事故現場から逆に追いかけてみたら、事故現場に何者かが現れ、そこに女性を放置して立ち去っている姿が映っていたとの事。


「どういうこと?」

「つまり、事故じゃなく他殺、しかも事故を装われて殺されたってことよ」


「事故原因探るために事故現場の周辺のカメラの映像はチェックしているはずよ?その様子が映っているなら警察も見ているはずなのに、なぜ事故扱いされたのかしら?」


「そりゃー、決まってるだろ」

「捜査に圧力がかかって隠蔽した!」


「だろうね」

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