第五話
そして夜になり私達は街に繰り出す事にした。賑やかな繁華街を抜け裏通の方へ向かう。派手な看板はあるものの人通りは少なくなり、照明が照らし上げてない真っ暗な部分が目立ち始める。その中を制服を纏った梨名と天衣がゆっくり歩いて行く。時々大声で笑い声を上げながら楽しそうに歩いている。一見するとどこにでもいる普通の女子高生。二人とも一般人離れした特技を持っているなど気付きもしないだろう。
そんな二人を見失しなわない程度の距離で保乃先輩と一緒に跡をつけていく、しばらく進んでいると、、。
「ねえねえ、お姉さん達カラオケ行かない、カラオケ」
二人に話しかける輩が現れた。今までも何人かに声を掛けられていたが、今回の男は粘り強く食い下がっているようだ。天衣は話しかけてきた奴の事などいないかのように振る舞っているようだが、、。
「ねえ、ちょっとだけでいいからさ、付き合ってよ」
「さっきからうるせーぞ!テメー!死にてーのか!」
そのしつこさに流石に天衣はキレてしまい、私達に向ける普段の顔とは似ても似つかないほどの恐ろしい形相で睨みつける。すると『すいませんでしたー』と言ってスゴスゴと退散していった。
「あははは、私の天衣ちゃんをナンパするなんて命知らずな奴だなー」
その光景を見ていたら笑いが止まらなくなった。殺気を出した時の天衣は異常そのものだ。その辺のチャラ男など一瞬で竦み上がってしまうだろう。
「そうね。見た目だけは可愛いからね、見た目だけはね」
保乃先輩も追従し笑い出す。天衣のプレッシャーを感じた経験があるだけに、あの男の心中を思うと同情して止まないのだろう。
「聞こえましたよ!保乃さんも私批判ですかー」
イヤホン越しに私達の会話が聞こえたのだろう。天衣は不満の声を上げる。
「私はいつでも天衣ちゃんの味方だよー」
「リーダーは嫌です。近づかないでください」
「またまたー、本当は嬉しいくせに」
飛奈っていつからこんなキャラになったんだろうと思う保乃だった。それに加えあの震え上がるような冷たい目をしていた女が、飛奈の前ではこんな表情をするんだなーと意外な気持ちでいっぱいになった。
「そんなことより、今の奴から妙な音がしたわ」
梨名は私達の会話には耳も貸さずそう言ってきた。
「妙なって?」
「粉薬が袋の中で揺れるような音」
「それってもしかして!」
「完全にビンゴじゃないの!?」
保乃先輩と目を見合わせる。
「梨名どこ行ったか分かる?」
「私分かるわ、付いて来て」
保乃先輩がそう言って私の手を引く、、。
「私達はどうしたらいいんですか?」
「後にくっ付いて来なさい」
しばらく行くと人だかりが出来ていた。『救急車ー』そんな声が聞こえてくる。保乃先輩と目を見合わせ、駆け出し近づいて行くと、、。
明らかに焦点の飛んでいる若い女性が、繰り返し意味不明なことを連呼しているようだった。その姿を見た保乃先輩は人を掻き分け飛び込んでいき女性を動かないように抑え込む、、。
周りに救急車は呼んだの?と確認すると、暴れないように怪我しないように体を抑えてと指示を出す。そしてしっかりしなさい、意識を強く持ってと声を掛け続ける。
救急車が到着しその女性を隊員に引き渡し、救急車が走り去って行くのを見送った後、不意に話しかけられた。
「あのー、、警察の方ですか?」
保乃先輩の現場検証でもしているかのような姿にそう思ったのだろう。小柄で色白、か弱そうな女性だったが、綺麗な響きの良い声をしている印象の娘だった。
警察の方ですか?との質問に、どう答えていいか一瞬返答に困っていたようだったが『違います』とそう答えていた。
女性はその答えにすいません、失礼しましたと丁寧に頭を下げ退散していく、、。向きを変えた時、揺れるピアスが印象に残った。
「誰?知り合い?」
その状況を見ていた梨名が保乃先輩に話しかける。
「いいえ、全く見覚え無いわ」
保乃先輩は妙に気になったようで、立ち去って行く女性の後姿をしばらく見送っていた。
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