第四話

「これってどういうこと?」


 二人は高校の制服風の衣装を着せられて女子高生風のナチュラルメイクに、梨名はボブヘアのサイドに編み込みを入れ耳の上辺りにリボン、天衣はハーフツインに結び目に二つのリボンをつけた姿にさせられていた。


「可愛い、、可愛い、、二人ともちょー可愛い、、お人形さんみたい、持って帰りたい、、」

 飛奈は高揚感が高まりに高まっている表情で見つめてくる。


「持って帰るって、基本ここで一緒に寝泊まりしているだろうが!」


 梨名に突っ込まれてもお構いなしに、飛奈は分かりやすい程の大きなリアクションで喜びを表現する。


「この格好に何か意味あるんですか?」

 天衣は飛奈の視線に恐怖を感じ、話を逸らすために華鈴にそう聞いた。


「潜入捜査よ」

「潜入捜査?」


「潜入捜査と女子高生の格好が何か関係あるのかよ?」


「最近夜の街に集まってくる無知な女の子に、薬物を売りつける輩がいるみたいだからその格好で調査してきてよ」


「この格好で街中歩くのかよ!?天衣はともかく私で大丈夫なのかー?」


「大丈夫、大丈夫、私なら絶対連れ去っちゃう」

 飛奈はさっきから変な思考になっていた。



「こんにちはー」

 そこへ柴村保乃が訪ねてきた。


「・・・なんか、、私お邪魔だったかしら?」


「大丈夫、大丈夫、お待ちしてました。変なプレイ中じゃないから大丈夫よ、さあ遠慮なく入って」


 変な状態になってる飛奈を尻目に華鈴が保乃を案内する。今作戦を考えているんだけど、ちょっと趣旨がずれてしまっているだけだからと説明する。保乃はいつもこうなのかと尋ねた後、苦笑いを浮かべていた。


「さあ、遠慮せず食べてね、良かった、良かった、これで2、2のペアで行動出来るわね。作戦も考えやすくなるってもんだ」


 保乃は私達に時々冷ややかな視線を送りながら、華鈴から私達がこれから行動を起こそうとしている詳細の説明を聞いていた。押収された薬物が市場に戻っていると聞いた時は、かなり怪訝そうな表情を浮かべていた。

 信じられないと唖然とし、華鈴の調べ上げたデータを喰い入るように見つめる。唇を固く結び『分かったわ、協力する』そう言っていた。


「何か、、今まで持っていた価値観がひっくり返ったんですけど!?」

「これが現実よ。警視庁は本当に把握してないと思う?」


 きっと勘づいている者は居る、居るけど私のように別の部署の仕事だからと責任転嫁しているのだろう。情けなくなる、正義の砦であるべき組織がこんな輩を野放しにしておくなんて、、。これからこの娘達は街に繰り出し現状を調査しに行くとのことだ。



「さあ、食べて、食べて、腹が減っては戦はできぬですよ」


 そう言って華鈴さんは私に次々と食事を差し出してきた。その間、飛奈、梨名、天衣はずっと戯れあっていた。


「いつもこんな感じなの?」


 そう言うと下調べするのは全部私、あの娘達はいつも行き当たりばったり、こっちはあの娘達が首尾よくことを運べるように、事前準備を整えておくだけと言って苦笑いをしていた。


「でもこういう奴がいるから助かるのよ。資金調達は悪い奴からせしめれば良いけど、武器調達が難しいのよ」


 華鈴さんの話では銃火器の調達は、警察組織から流れてくるのが一番足がつきづらいから安全だし性能は良いらしい。裏ルートから流れてくる銃火器などは不具合が多いから安全に使えるような代物ではないとか。警察組織から流れてきたものはそもそも足がついても向こうが隠蔽しようとするから安全らしい。


「あなた押収した銃火器の横流しは出来ないの?」


「無理ねー。私は押収された銃火器がどうやって処分されているか知らされてないし、そもそも研究施設で死亡したことになってるから、のこのこ警視庁に戻れないわ」


「そうよね」


 でも何か力になりたいから方法を探してみるわよと言ったら、なら大丈夫と拒否された。今回みたいに大ごとになるような、派手に銃を乱射するようなことはまずしないらしい。彼女達の暗殺方法は主に一酸化炭素中毒死とのこと。


「一酸化炭素?」


「あの娘達を危険に晒さなくて済むし、返り血を浴びなくて済むし、練炭置いといて簡単な書き置きおいとけば、向こうが勝手に自殺の理由考えてくれるしね」


 一酸化炭素は無味無臭の気体。部屋の濃度を0,5%にすれば良いだけ、換気口をちょっと塞いで注入し、失敗したら折見て繰り返せばいいだけ。成功したら練炭、書き置きの工作をすれば良いだけらしい。


 前回はあんなウイルスを他の国でばら撒かれたら困ると思い強硬手段を実行したとのことだ。今思うと本当に末恐ろしい、あんなのばら撒かれたら『薬が欲しかったら言うこと聞け』と言われたら言うことを聞かざるを得ないだろう。『薬が欲しかったら大金を払え』と言われたら言うことを聞かざるを得ないだろう。

 あんなクズの命を守る仕事をしていたなんて、、。


「それでどうするの?」


 死亡させてしまったら後戻りはできないので、出来るだけ確実な証拠が欲しいとのことだった。それで街に繰り出し現状を把握してきて欲しいとの事だ。一般的な少女を演じ密売人を誘い出し、そこから元ルートを辿っていく。そして厚生労働大臣、石井康静に辿りつけば作戦実行だ。

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