第22話 次なる作戦
「良く無事で戻って来れたわね」
埃だらけになり、真っ白になっていて、疲れた顔をして戻って来た私達を華鈴はそう言って迎えてくれた。
その後、冷たい飲み物を用意して差し出してきてくれた。
「ぷっふぁー、あっぶなかったー」
差し出された冷たい麦茶を一気に飲み干すと、近くのイスに『ドカッ』と、腰を下ろし体重を預け、緊張していた体の力を抜くと天井を眺めながら大きく息を吐いた。
「アイツ等!ふざけた真似しやがって!」
梨名は髪の毛をイラついた感じにクシャクシャに掻き上げながら言った。髪を撫で回す度に埃が出てくるので、出てくる度に苛立ったように強く掻き上げていた。
「でも、梨名さん流石ですね。一人片付けましたよね?」
切羽詰まった環境を生き抜いてきたからなのだろうか、私、梨名と違い天衣は何事もなかったかのように飄々としていた。
「まあねー、この梨名様は、一度出撃したからにはただでは戻ってきませんのよ」
天衣にそう言われると機嫌が直ったようで、得意げな笑顔になってグットのポーズをしてきた。
爆発は良い具合に壁と窓を破壊し、我々の脱出口を作ってくれた。それに、巻き上がった爆煙が、こちらの身を隠すのにちょうど良い隠れ蓑になってくれ容易に脱出する事が出来た。
その時、梨名が向こうからする微かな音でSPの位置を探り当て、外へ飛び出す直前に爆煙の中から銃撃し見事命中させたのだった。
「見ないで撃ったほうが当たるんですね」
「そうなのかなー?って?それ、褒めてんのか?」
「ほ、め、てます?」
天衣は分かりやすく目を泳がせそう答えた。
「嘘つけー!」
絶対嘘だと察した梨名は天衣に向かい飛びかかっていった。
「あんな目に遭ったのにホント元気ね」
その様子を呆れた感じで華鈴は見て微笑んでいた。
「あんな目に遭ったのにじゃなくて、あんな目に遭わせたんだろうが!」
あんな目にと言ったのは私じゃなくて華鈴だったのだが、梨名はそんなのお構いなしに私に詰め寄ってきた。
「そうですよ。酷いですよリーダー、上手くガスが抜けるかもとか言っていたじゃないですかー!」
「抜けるかもって言ったけど、爆発するかもっても言ったでしょ」
そう天衣に言い返すと梨名が割って入ってきた。
「あんな事になるなんて聞いてないし、お陰で耳がガンガンして何も聞こえなくなったんだからなー!」
「うるさいわね!私に言わないでよ!悪いのはアイツ等でしょ。八つ裂きにしてやりましょ」
「おーよ、あの筋肉ダルマのゴリラ女、全くふざけた事しやがって、腹割いて内臓引きずり出してやる」
「梨名さんそれはグロすぎです」
「いくら憎くてもねー、流石にそれは気持ち悪くて出来ないわよねー」
梨名はもう怒りの限界を超えてしまったようで、かなり残酷な言葉を吐いてきた。その言葉に流石の天衣も華鈴も引いてしまったようだった。
「本当にやる訳じゃないし、言葉のあやってやつでしょ」
「ホントかしら?」
「嫌ですわねー、ホント、どうやったらそんな残酷なこと思いつくのザマしょ」
「変な奥様言葉になってんじゃねーよ!」
「ああいう人が動物虐待とかするんザマしょ」
「嫌ですわねー」
「コラー!!」
また3人の戯れ合いが始まってしまった。
「どうする?少し休む?」
しばらく戯れ合いを楽しむと、華鈴が私達を労いながらそう声を掛けてきた。
変な戯れ合いを繰り返していたので、一瞬華鈴に頭がおかしくなったと思われてそう言われたのかと思った。
「私達、至って正常よ!」
「はー?何言ってんの?そうじゃなくて、これからどうするの?」
「ああそっち!?」
頭がおかしくなってるから、少し休んだほうが良いのではとの意味で言われているのかと思った。
「いいえ、すぐに出るわ。きっと奴等は混乱しているはず、この機を逃す手はない。何か策は考えてある?」
「あれだけ危ない目に遭ったのに、よくそんなにすぐ切り替えられるわね。もう少し慎重になった方がいいんじゃない?」
「あとは坂口一人。さっさと片付けて終わりにして、柔らかいベットでゆっくり寝たいのよ」
華鈴はその言葉を受け梨名と天衣の方に目をやる。二人とも異論は無いようだ。
「全くあなた達のタフさには呆れるわ。奴等の移動先はちゃんと掴んであるけど。本当に大丈夫?」
その言葉に軽く頷くと『ふぅー』と、息を吐き『仕方ないわね』とでも思ったのだろう。パソコンの画面を皆んなに見えるような位置に変えると、次の作戦の概要を説明しだした。
「次は奴等のいる部屋の前のスプリンクラーを作動させるつもり」
「スプリンクラー?そんなの作動させてどうするの?」
「ここにはまだまだ沢山の感染者がいるわ。知っての通り水の音を聞き付ければ沢山集まって来るはず。その混乱に乗じて坂口を暗殺するってのはどう?」
「意外と淡白な作戦ですね」
確かに今までの作戦に比べると力押しのような気もする。何か考えがあっての事なのだろうか?
「感染者が近くにいればさっきみたいな爆発は起こせなくなる」
私達の表情を一瞥するとそう言ってきた。
「なるほど!」
テロリストとなればいざ知らず、病気に侵されている患者となれば、そうそう怪我をさせる訳にはいかなくなる。先程のように周辺を滅茶苦茶にするような事は出来なくなるだろう。
「私達の事を考えての事なのね。分かったわ。よし!今度はそれで行きましょう。でも相手も知恵を絞って応戦してくるはず、十分注意して行きましょう」
「おーっ!」
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