第二十二話

「はい、はい、ちゅうもーく、注目。いつまで戯れ合ってるのよ」

 私にそう言われた三人はしぶしぶこちらに視線を向けてきた。


「大分時間掛かったけど、これで終わりにしたいと思います。次で終わらせるつもり行きましょう」

 発破を掛けるようにパチンと手を叩く。


「さっきからそのつもりでいるけど、向こうが反撃してくるんだもん」


 気怠そうに飛奈がそう反論してきた。そりゃー、反撃くらいしてくるわよと思ったがその反撃が想定以上だったので、愚痴ぐらい言いたいのだろうと思い言わせておくことにした。


「でも、もう大丈夫。反撃されないようにするから」


「そんな事できるんですか!?」


「ええ」


「そんな事できる訳ないじゃん。出来るなら初めからやってるし」


 飛奈は気怠そうに回転イスに座ると左右に体を動かしながら、口を尖らせ掌をヒラヒラと振りながら言った。

 リーダーのクセして作戦は任せっきりにしているクセになんて態度だ!『貴様はアホウドリか!』と、突っ込みたかったがやめておく事にした。

 いつも危険な現場に行くのは彼女達だ。しかも私の作戦は机上の空論となってしまっている。向こうに完全に出し抜かれている。今の私は彼女達を説教できるような立場ではない。怠慢な態度に些か苛立ちを覚えたがその気持ちを飲み込み私は話を進めた。


「この手段はね、有る条件下じゃないと出来ないんだけど、向こうはその条件下に見事に飛び込んでくれたのよ」

 大袈裟なくらいに喜んで見せながらそう言う。


「それってもしかして飛んで火に入る夏の虫ってやつですか?」

 得意気に語った天衣に梨名はチョップを喰らわしていた。


 天衣は最近覚えた難しい言葉やことわざをよく使いたがる。どこでそんな言葉覚えてきたのやら、私はそのやり取りをさらっと流し説明を続ける。


「この施設は防火対策が万全でスプリンクラーや防火シャッター、扉が各所に設置してあるって事は前にも言ったけど、大事な研究データを保管してあるハードディスクを消火のためとはいえ濡らして壊してしまう訳にはいかないでしょ。もしもの時のために研究データはバックアップしてあって一括して保管している部屋があるの。そこは水で消火するわけにはいかないから二酸化炭素を排出し酸素の濃度を薄め火を鎮火するような仕組みになっているのね」


「それで?それで?」


 結論だけ知りたがりの梨名は早くその先を聞きたいと言わんばかりに急かして来た。先程2人が梨名を揶揄っていたとき『気みじか』と、言っていたのはあながち間違っていないなと思った。


「なーに笑ってんのよ。早く進めてよ」

 ついついニヤけてしまい突っ込まれてしまった。


「いや、いや、ごめん、ごめん。何でもない。それでその部屋が今のアイツ等が逃げ込んでいる部屋の真下なの。アイツ等はさっき手動で換気システムを操作したみたいだけど、システムに侵入出来る私にとってはここでキーボードをポンポンと叩けばアイツ等のいる部屋を二酸化炭素まみれにしてやる事なんて楽勝なの」

 そう言ってブイサインをした。


 私のブイサインに皆は目を輝かせ『おー!』と言い、大袈裟なくらいの拍手をしてきた。『絶対にバカにしてるだろ!』と、思ったがこの作戦に間違いはないと思っているのでそのまま話を進める。


「二酸化炭素は無味無臭の気体。徐々にその濃度を上げていけば部屋の中の酸素濃度は下がり意識が遠退き、意識レベルは下がり筋力も低下してくる。ゆっくりゆっくり進行させれば、疲れが溜まっているアイツ等は、睡魔が襲ってきているのだろうとしか思わないでしょう。意識レベルが下がり筋力も下がり、動こうとしても体がいうことを聞かなくなったところで部屋に侵入しチェックメイトするなんてのはどう?」


「何それ!完璧じゃないの!」


 飛奈はそう言いながら抱きついてきて頬擦りしてきた。失い掛けていた信用は回復したようだ。先ほどまでの気怠そうな横柄な態度はなくなっていた。

 頬ずりするだけでなくキスをしてこようとしたので全力で抵抗し、突き放し『キモ!』って言ってやると、嬉しそうにニタニタしていた。


『この変態め!』


「でも今までの事があるだけに、そう簡単にはいかないんじゃないですか?」


 向こうも対策を練ってるかもしれないと思っているのか、天衣は不安顔をしている。リーダーにも同じような慎重さが欲しいものだ。


「そうね。でもね更にこちら側が有利になることがあってね」


 そう言ってキーボードを素早く操作するとモニターにアイツ等の映像を映し出してやった。

 驚きが広がり、部屋の中でのアイツ等の映像に全員が喰い入るように見つめ出す。武器の点検をしていたり、ドアの補強をしたり、バリケードの確認をしているようだった。


「何これ?リアルタイムの映像なの?」


「そうよ。この部屋のパソコンにウェブカメラが付いていたようなのでハッキングしちゃいました!」

 得意気にそう言うと三人とも同じ様な驚きの表情を浮かべたので気分が良くなった。


「向こうの動きが丸分かりじゃない?」

「これなら向こうの動きを逸早く察知して臨機応変に対応出来るわね」


「でも念の為にこれも想定した上で行動しましょ」

「どういうことですか?」

 天衣がその言葉の意味が分からないようなので言い直した。


「向こうはカメラで見られているのも想定しているかもしれないから、注意して行動しましょうって事よ」


 華鈴の放った無味無臭の気体は徐々にアイツ等の体を蝕んでいった。


「交代で休息を取りましょう」

 そう聞こえた後、一人、また一人と眠りに落ちていった。


「さあ作戦開始よ」

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