第二十一話

 動かなくなった岡島さんを布でくるみ、最後に顔を塞ぐと手を合わせた。常に私達の前に立ち先導してくれた事、ロープで引き上げてくれた時の事、班長や栗林、光牙が殺られた時、寄り添っていてくれた事、過去にあった事を思い出し涙が止まらなくなる。 しかもそれをやったのが幼馴染みというのだからやりきれない。5人いたSPはもはや私だけ。これからどうしていけばいいのだろうか、、狙われているのは私ではない。ましてや有美でも朱璃でも女生徒達でもない。

 職務として守らなければいけない対象の大沢先生は既にこの世から去ってしまっている。見ず知らずの今日会ったばかりの坂口とかいうおっさんをこのまま守り続けなければいけないのだろうか?

 もう負けを認めて投降してしまおうか。降参すれば飛奈の事だ、きっと命をとるようなことはしないだろう。何だかどうでもいいような気分になってきた。


「保乃、保乃大丈夫?」

 その場からぜんぜん動こうとしないので、心配になったのか有美が声を掛けてきた。


「パンでも食べましょう」


 そう言ってあんパンを差し出してきた。良く見ると全員が既に美味しそうにパンを頬張っている。


「どうしたのこれ?」

「こっちの棟ではね。パンも作ってるのよ」


「パンも?」

 私が不思議そうにパンを見つめていると少し微笑んだ後、そのパンの事を説明し始めた。


「この施設はウイルスの研究や新薬開発だけでなく、長期で保存出来る食品の開発や悪条件下でも美味しく育つ野菜や果物の研究、汚水を飲み水に変えれるフィルターの開発なんかもやっているのよ」


「そしてここは長期保存出来るパンを開発、研究をしている部所なの」


 なるほど!だからあれほど大量の小麦粉があった訳かと思った。有美から受け取ったあんパンの封を開け一口頬張る。口の中にパンの風味が広がり遅れてアンコの甘さが広がった。強い甘味ではなく、まろやかなその甘味は私の好みにピッタリだった。


「美味しい」

 一口食べただけで思わずそう叫んでしまった。


「美味しいでしょ?保乃のその言葉と表情を見たら、ここの部所の人達きっと大喜びするわよ」


「!!」


 そうか、そうだった。ここの部所にも人がいたんだ。ここには将来の平穏のために日夜努力し続けている人達がいたんだ。

 その人達が無惨にもテロ行為を受け、意識混濁させられ理性を失う羽目になっている。そして今なお辛酸を嘗め続けている。そんな事を許しておけるはずがない。そんな暴挙をした奴等を許しておく訳にはいかない。無関係なのに被害にあわれた人達を早く救いだして上げなければならない。私は負けるわけにはいかないんだ。焦点を失い掛けていた目に行く末が見え広がっていった。



 どうやら保乃は目に力が戻ったようだ。まだ戦う気のようだ。応援したいけど形勢は極めて不利、こちらには戦闘員は保乃しかいない。強行手段で突入してきたらまず防ぐ事は出来ないだろう。

 こちらには圧倒的な火力があると見せつけたが、自制するような効力を発揮してくれていると有難いのだが、、。せめて飛奈がなぜこんな暴挙をしているのか理由が分かれば交渉できるかもしれないが、、。何か良い方法はないだろうか、、。

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