第二十話

「ありがとう。防火シャッター無かったら死んでたかもだよ」


 飛奈は部屋に入るなりそう言いながら私に抱きついてきた。かもだよ?何か変な言い回しになってるぞ?と、思ったが興奮しているのだろうと思い、触れないで置くことにした。


「あーもー、耳がガンガン鳴ってるよー」


 耳の良い梨名にとっては人一倍辛い衝撃音となったのだろう。部屋に入るなりそう言って両耳を手で押さえながらソファーに『ドカっ』と倒れ込んだ。


「もしかして、今だったら梨名さんの悪口言っても聞こえないですかね」

「かもね」


 その姿を見た飛奈と天衣は意地悪そうな笑顔を見せると『大食い』やら「つり目』やら『方向音痴』、『気みじか』などなど一斉に罵り出した。


「全部聞こえとるわボケー!」


 梨名は一瞬『ピクっ』となった後、急に立ち上がり2人に掴み掛かった。飛奈は天衣を突き出しその後に隠れる。

 突き出された天衣は必死で弁明しているが、頬をつねられたり顔を揉みくちゃにされたりして酷い顔になっていた。


「痛い、痛いです、、」


「ごめんなさいは?」


「ごめんなさい、、」

「よし」


「リーダー、酷いですよー」

 膨れっ面になった頬は散々摘まれたせいか赤くなっていた。


 粉塵爆発の現場にいたというのに全くタフな奴等だ。一歩間違えば死んでたかもしれないんだぞ。どういう神経しているんだコイツ等は。元気で何よりだが少しは『反省というものをしましょうね』と、思った。

 ふざけ合う姿を見て、この娘達に次の作戦を考える気は更々無いなと思い、何か良い案は無いかとパソコンを叩き画面を見つめ思案する。


 その間も3人は『キャキャ、キャキャ』と楽しそうだ。


 もう感染者は使えない。感染者が残っていたとしてもごく少数だろうし、向こうも生態と特徴を把握してしまっている。

 気化爆発や粉塵爆発を使ってきていることから考えても、向こうも遠慮なしのガチできている。こちらも遠慮する必要はないと考えた。

 あの手でいこう。向こう側が潜んでいる部屋を探しだし最終手段が使えると判断し実行することにした。



「華鈴、、お腹空いたー、もう帰ろー」

「帰ろうって、ここまでやっといて終わるの?」


「もういいでしょ。坂口は後で暗殺すれば」


「暗殺でいいなら、なんでここまでの茶番劇したのよ?」

「それは華鈴が物好きだからでしょ」


「物好きって、、あなたが、できるだけ騒ぎが大きくなるような作戦考えてって言ったんでしょ」


「そうだっけ?」

「呆れたー、どんだけ物忘れ激しいのよ」


「もう飽きちゃったんだろ」

「リーダーは子供だからー」


 私が飛奈の態度に呆れていると梨名、天衣も追従して白い目を向けた。


「何よー」



「そもそもなんでこんな大掛かりなことしようと思ったんでしたっけ?」

「だから、あれだろ、騒ぎ大きくして隠蔽できないようにしよって話だろ」


「向こうで勝手にドカン、ドカンやって盛り上がってたからもう隠蔽は無理でしょ。もうこの辺でいいんじゃない?」


 大丈夫なのかよ!てか、死にかけたってのにドカン、ドカンって表現するってどんだけ無神経なのよ。花火じゃないんだから、あなた達爆発の現場にいたのよ!ちょっとは萎縮しなさいよ。この鈍感娘ども!



「どーせ隠蔽されちゃうわよ」


「なんで隠蔽しようとするんですか?」


「政府与党の幹部が陰で悪さしようとしてた、、なんてスキャンダルでたら与党がひっくり返っちゃうかも知れないでしょ」


「政治家なんて自分等の保身の事しか考えてないから、無かった事にするのが一番ってすぐ思うのよ」


「じゃあ、私達のした事は無駄だったってことですか?」


「これだけ多くの感染者を出したんだから全員の口を封じるなんて無理よ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る