第16話 高畑暗殺
「天衣ちゃーん、ちゅごかったねー、いい子いい子ちてあげるからこっちおいで」
「嫌です。やめて下さい。こっち来ないでください」
部屋に入るなり私は赤ちゃん言葉になり、天衣を追いかけまわし出した。嫌がる天衣を捕まえると頬ずりする。
天衣はやめて下さいと言いながらも、本気で抵抗してこようとしなかった。なので余計に調子に乗って、可愛い天衣ちゃんに濃厚なスキンシップをし始めた。
普段なら梨名も参加するのだが、そんなことはお構いなしに自動小銃をマジマジと眺めていた。
「なんで気付かれたんだろ?私の魅力のせいかなー?」
「はいー!?」
「ホント、梨名さんは狙撃下手ですよね」
「静かなトーンで言うな、ヘコむだろ!つーか、自分だって下手だろーが」
「私はいいんです。銃使わない派なので」
「なんだそりゃ!使わない派じゃなくて、使えない派だろ!」
「自分だって使えない派じゃないですかー!」
梨名と天衣が戯れあい出したので私は割って入った。
「梨名はね、お祭りの射的も当たらないんだから仕方ないのよ」
今度は華鈴が梨名を揶揄し出す。
「うるさいなー、お前は当てられるのかよっ!」
「私は得意よ」
「嘘つけ、年中引きこもってるクセに、祭りなんて行ったことねーだろっ!」
「あ、り、ますー、5年前に」
「そんな前じゃ、あてにならねーだろ!」
こっちも止まらなくなりそうだったので私は割って入った。
「いいんだよ、今度は当たる距離まで行って撃つから」
梨名は自動小銃を置くと拳銃を取り上げそう言った。
「それでアイツ等どうなった?」
「あの単細胞どもなら、こちらの思惑通り動いてくれているわよ」
梨名の質問に華鈴は得意げに答えていた。
「行くの?」
「ええ、私の青春をぶち壊した張本人に復讐してやるわ」
梨名のマジトーンの言葉に怖い、怖いと思いながら二人と目を合わせる。
そんな私に目もくれず、梨名は悲願だった高畑達也暗殺へと向かって行った。
真実に気付いてからずっと憎悪を抱いていた。
私欲のためなら、未来ある女子高生の犠牲なんてなんとも思わない奴だ。死んで当然だろう。
アイツが生きていたら、これから何人犠牲者が出るか分からない。あんな奴生きていない方がいい。
梨名にぶち殺されてしまいなさい。
「天衣、SPが動いたら私達も行くよ」
「えー!、もー、ですかー?」
「梨名、2人向かったわ」
天衣と戯れあっている間に自体は大きく動いていた。モニターを覗いている華鈴の緊迫した感じの声が聞こえてきた。
「天衣、私達も行くわよ」
「了解でーす」
「了解、思っていたより早く動き出したわね。今どのへん?」
「今、所長室を出たとこ」
出発しようとしたら梨名と華鈴のやりとりが聞こえてきたので思わず足を止めた。
「なら大丈夫。私はもう高畑の部屋の前まで来たから、殺ってSPが来る前に部屋を出れるわ」
「了解、じゃあ変更なしで行くわね。ただ時間は無いわよ。焦らさないで瞬殺しなさいよ」
「了解」
次の瞬間、華鈴はキーボードを素早く叩き出した。顔を覗くと華鈴の血相が変わっているような気がする。
「どうしたの?」
「SPの姿が消えた?」
「どういうこと?」
華鈴の話では階段に向かったはずのSPが一階の監視カメラに姿をいっこうに見せないのだとか。
「それがどうかしたんですか?別なルートを行っただけでは?」
天衣は華鈴の緊迫感をよそに、何が問題なのか分かってないような感じでそう聞き返す。
華鈴はモニター画面に何種類もの映像を映し出し早戻しし始めた。
視線を仕切りに動かし敵の動きを探ろうとしているようだった。
監視カメラはセキュリティの必要性が高い部屋の前や正面口、裏口、通路が重なり合う場所、階段などに一定の間隔で設置されている。
多少の死角はあるが人間程度の大きさなら、各所に有る監視カメラに映らないように行動するのは至難の業。
一階に降りているなら一階にあるどこかの監視カメラには映っているはず。しかし、見当たらないようだった。
「久しぶりねー、私のこと覚えている?」
イヤモニから梨名の声が聞こえてきた。どうやら梨名は宿敵高畑の前に到着したようだ。
カチャッと安全装置を外す音が聞こえてきた。
「すまなかった。許してくれ。どうか命だけは」
高畑の声だろうか震えた中年男性の命乞いをするような声が聞こえてきた。
「ふざけるなよ!私が『お願い助けて』って言った時、お前は何て言った?」
再び梨名の声が聞こえてきた。高畑の命乞いは梨名には火に油のようだった。梨名に一喝されても醜く何か言っていたようだったが、次に聞こえてきた銃声のせいで何を言っているのか聞き取る事はできなかった。
華鈴は引き続き慌ただしくキーボードを操作している。
「まさか!」
といきなり大声を上げた。
今まで見ていた映像を切り替えると三階の監視カメラの映像に切り替える。三階の階段の上の画像を引っ張りだし、焦った感じで早戻しして確認していく。
「梨名ー、早く逃げて。窓側から飛び込むつもりよ!」
華鈴はSPの動きを察知したのだろうか、声のトーンが緊迫さを物語っていた。
A棟からB棟に移動するためには、一階まで降りて中庭を抜け移動するはずと思い込んでいた。
しかし、屋上に上がれば連絡通路が架かっている。屋上に向かう姿は映っていた。そして、B棟の屋上から三階へ降りてくる姿は映ってない。
咄嗟に窓から飛び込む気なのかもと考えたみたいだった。
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