第十六話

「良く無事で戻って来れたわね」


 疲れた顔をして戻って来た私達を華鈴はそう言って迎えてくれた。その後、冷たい飲み物を用意して差し出してきてくれた。


「ぷっふぁー。危なかったー」


 差し出された冷たい麦茶を一気に飲み干すと、近くのイスに『ドカッ』と、腰を下ろし体重を預け、緊張していた体の力を抜くと天井を眺めながら大きく息を吐いた。


「アイツ等!ふざけた真似しやがって!」

 梨名は髪の毛をイラついた感じにクシャクシャに掻き上げながら言った。


「でも梨名さん流石ですね。一人片付けましたよね?」


 切羽詰まった環境を生き抜いてきたからなのだろうか、私達と違い天衣は何事もなかったかのように飄々としていた。


「まあねー。この梨名様は、一度出撃したからにはただでは戻ってきませんのよ」

 天衣にそう言われると機嫌が直ったようで、得意気な笑顔になってグットのポーズをしてきた。


 爆発は良い具合に壁と窓を破壊し、我々の脱出口を作ってくれた。それに、巻き上がった爆煙が、こちらの身を隠すちょうど良い隠れ蓑になってくれ容易に脱出する事が出来た。

 その時、梨名が向こうからする微かな音でSPの位置を探り当て、外へ飛び出す直前に爆煙の中から銃撃し見事命中させたのだった。


「見ないで撃ったほうが当たるんですね」

「そうなのかなー?、、それ、褒めてんのか?」


「ほ、め、てます」

 分かりやすく目を泳がせそう答えた。


「嘘つけー!」



「あんな目に遭ったのにホント元気ね」


「あんな目に遭ったのにじゃなくて、あんな目に遭わせたんだろうが!」


「そうですよ。酷いですよリーダー、上手くガスが抜けるかもとか言っていたじゃないですかー!」


「抜けるかもって言ったけど、爆発するかもっても言ったじゃない」


「あんなになるなんて聞いてないし、お陰で耳がガンガンして何も聞こえなくなったんだからなー!」


「うるさいわね!私に言わないでよ!悪いのはアイツ等でしょ。八つ裂きにしてやりましょ」


「おーよ。全くふざけた事しやがって、腹割いて内臓引きずり出してやる」


「梨名さんそれはグロいです」


「いくら憎くてもねー、流石にそれは気持ち悪くて出来ないわよねー」


「そうですよ」


「本当にやる訳じゃないし、言葉のあやってやつでしょ」


「ホントかしら?」


「嫌ですわねー、ホントどうやったらそんな残酷なこと思いつくのザマしょ」


「変な奥様言葉になってんじゃねーよ!」


「ああいう人が動物虐待とかするんザマしょ」


「嫌ですわねー」


「コラー!!」



「どうする?少し休む?」

 華鈴が私達を労いながらそう声を掛けてきた。が、変な小芝居をしていたので頭がおかしくなったと思われてそう言われたのかと思った。


「私達、至って正常よ!」


「そうじゃなくて、これからどうするの?」


「ああそっち!?」


「いいえ。すぐに出るわ。きっと奴等は混乱しているはず、この機を逃す手はない。何か策は考えてある?」


「あれだけ危ない目に遭ったのに、よくそんなにすぐ切り替えられるわね。もう少し慎重になった方がいいんじゃない?」


「あとは坂口一人。さっさと片付けて終わりにして、柔らかいベットでゆっくり寝たいのよ」

 華鈴はその言葉を受け梨名と天衣の方に目をやる。二人とも異論は無いようだ。


「全くあなた達のタフさには呆れるわ。奴等の移動先はちゃんと掴んであるけど。本当に大丈夫?」


 その言葉に軽く頷くと『ふぅー』と、息を吐き『仕方ないわね』とでも思ったのだろう。パソコンの画面を皆に見えるように位置を変えると、次の作戦の概要を説明しだした。


「次は奴等のいる部屋の前のスプリンクラーを作動させるつもり」

「スプリンクラー?そんなの作動させてどうするの?」


「ここにはまだまだ沢山の感染者がいるわ。知っての通り水の音を聞き付ければ沢山集まって来るはず。その混乱に常時て坂口を暗殺するってのはどう?」


「意外と淡白な作戦ですね」


 確かに今までの作戦に比べると力押しのような気もする。何か考えがあっての事なのだろうか?


「感染者が近くにいればさっきみたいな爆発は起こせなくなる」

 私達の表情を一瞥するとそう言った。


「なるほど!」


 テロリストとなればいざ知らず、病気に侵されている患者となれば、そうそう怪我をさせる訳にはいかなくなる。先程のように周辺を滅茶苦茶にするような事は出来なくなるだろう。


「私達の事を考えての事なのね。分かったわ。よし!今度はそれで行きましょう。でも相手も知恵を絞って応戦してくるはず、十分注意して行きましょう」

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