第6話 救出作戦

「流唯ちゃーん」


 流唯ちゃんが走って行った先に進んできた私と光牙は大きくもない、小さくもないような声量で名前を呼ぶが、応答は無かった。


「食べられちゃったんですかね?」


「縁起でも無いこと言わないのっ!」


「保乃先輩、酷いですよ、冗談ですよ、冗談。殴ることないでしょ」


 無神経な言葉についカッとなって手を上げてしまった。


 襲われたのであればいくらなんでも悲鳴くらいは上げるはず、何処かに身を隠していると思われるが、身を隠しているとなると返事をしてもらえないことには居場所を掴みようがない。


 私達の向かった先の廊下には両脇に沢山のドアが立ち並んでいた。


「部屋一つずつ確認するしかないわね」


「これ全部開けて中確認するんですかー?」


 私の提案に光牙が不満の声を上げる。


「二人じゃ無理ですよー。班長達呼んで来ましょうよ」


「呼びに行っている間に流唯ちゃんが襲われたらどうするの?嫌なら一人で行きなさい。私だけで探しているから」


 私にそうどやされて光牙は渋々ついて来るようだった。


 通路に入り一番目のドアの前に立ち『流唯ちゃん』と、呼んでみる。返事は無い。私は警棒を取り出し光牙にドアを開けるように促す。ドアノブに手を掛けゆっくりと開けて中を確認する。


「先輩もし中に白衣姿の者がいたらどうするんですか?」


 10cmくらい開けたところで手を止めて聞いてきた。


「流唯ちゃんの安否が確認出来てない以上、取り押さえて縛り上げて、中を確認するしかないわね」


「いっぱいいたらどうするんですか?」


「うるさいわね、やるしかないでしょ」


 狭い隙間から除き込む、特に気配を感じないのでドアを一気に開け放つ。中は照明が点いてないせいもあり多少不気味さが感じられたが、特に異常はなさそうだった。2、3歩室内に入り『流唯ちゃん』と、呼んでみる。


「誰もいなそうですね。でも、あと何回この緊張感味わえばいいんですかー?」


 大きく息を吐きながら体の緊張を弛めながら言った。


「そんなの分かる訳ないでしょ」


 弱音ばかり吐くなよと睨み付けながら部屋を出て向かいの部屋へ向かう。同じようにドアノブに手を掛けゆっくり少し開き、中を除き込み安全を確認したあと一気に開け放った。


 次の瞬間、何かが飛び出て来たので警戒し身を強張らせる。


「マネキンかよ!」


 光牙はそう言って腰砕けになっていた。


 ドアに立て掛けてあったのだろうか?それとも開けたときの風圧でバランスが崩れ、こちら側に倒れて来たのだろうか?


 研究室に『なんでマネキンがあるんだよ!』と、思って怒りが込み上げてきたが、大きく息を吐いて感情を抑え、中に何もない事を確認すると隣の部屋へと向かった。


「今ので絶対、寿命縮みましたよ」


「そうね」


 心臓の辺りを抑えながら『勘弁してくれよ』と、言わんばかりの光牙の仕草に共感を覚え、微笑みながら次の部屋へ向かい、同じように三つ目のドアを開けようとした時、悲鳴が響き渡った。


 流唯ちゃんだ!


 声のした部屋の方へ向かう。ドアを開けると流唯ちゃんがテーブルを挟んで白衣姿の者と向き合っていた。


 流唯ちゃんが右に動くと同じ方向に動く、左に動くと同じ方向に動くを繰り返す。

 そして次の瞬間、白衣姿の者はテーブルに上がり流唯ちゃんに襲い掛かろうとした。流唯ちゃんは恐怖で頭を抱え込みその場に縮こまってしまった。


「逃げなきゃダメー」


 私は咄嗟に大声でそう叫んだ。すると白衣姿の者はこちらに向きを変え、向かって来た。


「ヤバイ、ヤバイ。こっちに来ますよ!」


「光牙は流唯ちゃんの安全を確保ー」


 私のその命令に幾分躊躇をみせたが言う通りに動いてくれた。


 白衣姿の者が私の方に襲い掛かって来る。


 警棒を持つ手に力を入れ、腰を落とし構える。身を屈め警棒を振るい足払いをし、転倒させ背中に倒れ込むようにし肘で打撃を加えた。


 その後腕を取り、押さえ込もうとしたが腕を払い除けられ、こちらに覆い被さって来る。私は覆い被される前に顔面を蹴り上げ弾き飛ばした。


 弾き飛ばされてもすぐに起き上がり表情一つ変えずこちらに向かってくる。痛みを感じていないのだろうか?


 それを見た私は躊躇せず顔面に警棒を振り下ろした。


 血が吹き出すが顔色は変わらない、やはり痛みは感じないらしい。そのまま警棒を掴まれ、引き寄せられ両手で肩を掴まれ、大きく開いた口が私の顔の目の前に迫る。


 私は後ろに倒れ込むようにし、巴投げのような感じで後方に投げ飛ばした。直ぐ立ち上がると向こうも立ち上がり、身を屈め腰辺り目掛けタックルして来た。


 私は半身になり横にまわって腕を取り、押し倒し柔道の脇固めのような体制にして押さえ込む。


 そのまま押さえ込もうとするが暴れる暴れる。


 そこへ光牙が援護に加わり足を押さえロープでぐるぐる巻きにし、両腕を背中で縛り上げ、奇声を発し続けているので近くに合ったテーブルクロスで口を塞ごうと顔ごと覆った。そこでようやく動きが止まった。


「先輩やりましたねー」


 ガクッと腰を落とすと、光牙は額の汗を拭いながら言ってきた。私も大きく息を吐き緊張していた体の力を抜いて、流唯ちゃんの無事を確認すると抱き締めた。


「ごめんなさい、ありがとうございました」


 無事で本当によかった。


「皆の所に戻りましょう」


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