第12話
照りつける日差しがわたしたちを突き刺す。
暑さを和らげるために、手で仰いでみるけれど効果はなし。
ショッピングモールまでの数十分の道のりが、果てしない長さに感じる。
気を紛らわせるように、涼しい表情で隣を歩く
「お昼のソースカレー、本当においしかったよ!」
「……急にどうしたの。……また作るわ」
「やったー!」
あの後、昼食で出てきたのは一風変わったソースカレーだった。
細かく切られた具材に、ソースの掛かった目玉焼きが中央に乗せられた食欲をそそる一品。
「いつもご飯は玲香ちゃんが作ってるの?」
「……両親が共働きだから、私が作ることは多いわね」
「頭もいいのに料理まで出来ちゃうんだ!」
「……レパートリーは少ないけれどね」
話している内に目的地まで辿り着く。
ここまで来れば
自動ドアを通るとショッピングモールの冷えた空気がわたしたちを出迎える。
内装は夏仕様になっているようで、ずらっと並ぶ扇風機の前を通ったあとには汗が引いていた。
上階が吹き抜けのおかげで、人が多い割に息苦しさはない。
「涼しい~! 生き返るぅ~!」
「……そうね」
「予定通り本屋さんからでいいよね?」
「……ええ。……百島、手を繋ぎましょうか」
「ん? そうだね、人多いもんね」
特に何も考えず、言われるがままに玲香ちゃんと手を繋ぐ。
恋人らしい行為も数日にして慣れてきた気がする。
離ればなれになってしまうほどの人混みかと言われると、全然そんなことはない。
「……そうじゃない。こうよ」
玲香ちゃんが不平を零す。
わたしは恋人やおろか、友達とすら手を繋いだことがないから、変な繋ぎ方をしてしまったのかもしれない。
今度は玲香ちゃんに任せてみると、互いの指をそれぞれ絡め合うような繋ぎ方になった。
絡んだ指からは、いつもより何割か増しで熱が籠っているようだった。
これって……恋人繋ぎってやつだよね!?
「……大丈夫。周りの人は意外と気にしてないものよ」
「そ、そうかな」
余計な心配だとは分かっていても、他人の視線が気になってしまう。
玲香ちゃんに
わたしの不安を察してくれたのか、ゲームセンターのとこに差し掛かったとこで、玲香ちゃんが口を開いた。
「……嫌ならば離すわ」
「全然嫌じゃないよ! このまま行こ!」
「……そう」
そうは言ったものの恥ずかしさ自体が無くなるわけではない。
手元を少しでも見られないよう玲香ちゃんにピタリと身を寄せる。
「……歩きづらいのだけれど」
「ごめん。すぐ離れるね!」
離れようとしたところを引き戻される。
「……離れろとは言ってないわ。次にくっついてくる時は先に言って。……心の準備をするから」
「え、最後なんて言った?」
「……何でもないわ」
玲香ちゃんの呟きとゲームセンターの爆音が重なって、ちょうど最後の一言がわたしまで届かなかった。
何でもない訳ないとは思ったけれど、しつこく聞くつもりはない。
本屋さんはゲームセンターからすぐの所にあった。
お互いに目配せでタイミングを計りながら繋いだ手を離す。
「……あなたは何か買うの?」
「いつも読んでる漫画の最新刊だけ買おうかなって」
「……そう」
てっきり玲香ちゃんは小説のコーナーに向かうのかと思っていたけれど、何故かわたしの後についてきた。
「……それが百島が読んでいる漫画?」
「うん」
「……私も買ってみようかしら」
「えぇ!?」
わたしが買おうとしているのは、シュールさに定評のあるギャグ要素強めのラブコメディ漫画だ。
玲香ちゃんが読んでいる姿なんて想像がつかない。
読み終えて「……なにが……面白いのかしら?」とか真顔で言いそう。
「ほぼギャグマンガだよ? 十巻以上続いてるやつだし」
「……そう。一巻から買ってみるわ」
そうじゃない、一巻から読んでって意味じゃないから!
「貸すよ、うちに全巻揃ってるから!」
「……あなたの家に?」
「うん」
「……分かったわ。今度お邪魔するわ」
諦めてくれたのか、一巻を元の場所に戻す。
何だか厄介な約束をしてしまったけれど、後で適当に誤魔化せばいいだろう。
わざわざ、わたしの家まで来なくても学校で漫画は貸せるし。
「……楽しみにしてるわ」
そんなに楽しみなんだ。
玲香ちゃんの部屋には小説しか置いてなかったけれど、実は結構漫画も好きだったりするのだろうか。
わたしは漫画の最新刊、玲香ちゃんは難しそうな小説を一冊お買い上げ。
互いに買うものが決まっていたから、本屋さんにいた時間はたった数分だった。
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