第11話
一寸先からはガサゴソと布が擦れる音。
灰色のコーディネートの中から、白い肌が
後ろめたさを感じながらも、指の隙間から見える
勘違いしないで欲しいが、同性の肌が見えた程度で恥ずかしがるほど、わたしは
ただ、恋人でクラスメイトのクール美少女が、こんな風に迫ってきたら性別なんて関係ないというだけで。
「違うから!
好きに触る――つまり、わたしが千春ちゃんにされたようなことを、
……な、なんで?
玲香ちゃんは、わたしが千春ちゃんの胸を揉もうとした現場を目撃したはずだ。
怒られるならまだしも、触っていいと言われるのは訳が分からない。
「……千春の方がよかったかしら?」
「いや、さっきのは、事故というか、じゃれ合い? みたいな感じで、結果的にああなっただけで、決して、千春ちゃんに何かしようとしたりは、してないから!」
わたしの口から出る言葉はツギハギ。
喋れば喋るほど、言い訳みたいになっていく。
「……あくまでも気の迷いだったと?」
「違うんだって、事故だよ、事故! 信じて!」
「…………そう」
いつも以上に間があったけれど、聞きなれた返事が返ってきた。
そこから数十秒の静寂。
布の擦れるような音も完全に止んでいて、そこにまだ玲香ちゃんがいるのかすらも分からない。
「……
「ひゃっ!?」
もうすでに玲香ちゃんは部屋から出て行ったのではないかと疑い始めた時、耳元で平坦な声が
驚いて勢いのままに顔を上げると、すぐそこに白色の下着姿の玲香ちゃんがいた。
不意に手首を引っ張られて、手のひらに柔らかい感触が走る。
ザラザラとした下着の肌触り。
「……どうかしら?」
「へ?」
感想を求められるとは思っていなくて、間抜けな声が出る。
「えっと、温かくて、心臓がすごい……ドクドクしてるね」
「……好きな人に触られているのだもの。当然よ」
「そ、そっか」
上手い返事が見つからない。
手のひらから伝わる鼓動がわたしの身体に響くようだった。
「……千春と何も無いことくらい分かってるわ」
「えっ?」
「……でも……あまり不安にさせないで」
後半はギリギリわたしの耳に届かないくらい小さな声。
頬は赤く染まっていて、拗ねた子供みたいに
手に籠った力も、どこか不満を訴えているようだった。
「玲香ちゃん……嫉妬してくれてる?」
自意識過剰かなと思いつつも聞いてみる。
玲香ちゃんはわたしから離れてベッドの上に座る。
自身の下着姿を隠すように枕を抱きかかえた。
「……付き合って数日で彼女面されるのは嫌かしら?」
「ううん。わたしこそ不安にさせるようなことして、ごめんというか」
「……そう」
まただ。
気まずい沈黙さえも許してしまうような、恋人っぽい雰囲気。
この関係も悪くない……そう思ってしまう自分がいるのも事実で、ベッドの上にいる彼女に何と言葉を掛けようかと考える。
――と、ノックの音が部屋に響いた。
「お姉ちゃん? 折角作ったご飯冷めちゃうよ?」
「……今行くわ」
ドアの向こうから聞こえてきた千春ちゃんの声でハッとする。
玲香ちゃんは何事も無かったかのように服を着始めた。
……危ない危ない。
また雰囲気に流されるところだった。
立とうとフローリングに手をついた直後、わたしの足がガクリと崩れた。
「――っ!」
「……何をやっているの」
「その……足が痺れちゃって」
「……先に行っているわ。痺れがとれたら来なさい」
崩れた姿勢のままのわたしに、玲香ちゃんは溜息を一つ吐いて部屋を出て行ってしまった。
そういえば、この部屋に入ってから正座っしぱなしだ。
治らない足をさすっていると、ドアから千春ちゃんがひょいっと顔を覗かせた。
「百島さん。大丈夫でしたか?」
「うん。拷問とかはされてないよ」
「流石にお姉ちゃんでも、そこまではやらないと思いますけど」
千春ちゃんはわたしの安否を確認すると、声音を落として内緒話でもするかのように話始めた。
「実は……お姉ちゃんとの会話ドア越しに聞いちゃって。百島さん、お姉ちゃんと付き合ってるんですか?」
「ど、どこから聞いてたの!?」
「……エッチなことし始めた辺りです。ラブラブなんですね」
「はい!?」
エッチなことなんてなにも……してないとは言い切れないのが悲しい。
「あの……連絡先聞いてもいいですか? 今は時間がないけどお姉ちゃんとのこと色々聞きたいので」
「えっ!? あ~……うん」
断るのも不自然なので、渋々だが連絡先を交換する。
これって、もしかしなくても……玲香ちゃんの恋人として、千春ちゃんも
「お姉ちゃんのことお願いします!」
「あ、あはは……」
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