第2話
絶対にスクールカースト最上位になれる方法が一つだけある。
それは、クラスの中でも特別な人間に媚びまくって仲良くなること。
学年で絶対的なポジションを確立している生徒と仲良くすれば、『学年一の〇〇さんの友達』という安全な立場になることが出来る。
ただし、相手は同性――つまり女の子出なければいけない。
クラスカースト最上位の男はモテる人間ばかりで、すでに彼女がいたり、知らない間に周囲にいる女の子から恨まれているみたいなことも多い。
女の子同士なら、引かれない程度にアプローチすれば、周囲からは友達間のスキンシップだと思われる。
わたしが黒姫玲香に取り入っているのは、彼女が都合の良い人間だったから。
その一言に尽きる。
誰とも付き合うこともなく、わたしがしつこくアプローチしても冷たく流す。だからといって、わたしに危害を加えることもない。
自分を貫いて生きているのに、誰もが認めている特別な人間。
なのに――
「なんで、わたしに告白するの……?」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「おはよう。
「……っ、おっはよーう! 玲香ちゃん!」
驚きすぎて心臓が裏返ったかと思った。
衝撃的な告白から一夜。
教室で、いつも通り冷たい表情の
出来るだけ明るい声を心がけたが、昨日のことを思い出して、声に動揺が混ざる。
……なんて答えるか決まらないまま朝を迎えてしまった。
どれくらい寝れたのか自分でもよく分からないが、気怠さだけが残っていた。
告白のことを何か言われるのではないかと、身構えたが、玲香ちゃんは何も言わずに読んでいた文庫本に再び視線を落とした。
「……なに? 気が散るのだけれど」
「う、ううん、何でもないよ。今日も玲香ちゃん美少女だなーって。目の保養だよ」
「……そう」
じっと見過ぎていたのか、
告白してきた玲香ちゃんは、わたしの夢か何かだったのだろうか。
そんな考えが浮かぶほどに、玲香ちゃんの声は冷たい。
「なーに読んでるの? 難しいやつ?」
「……何でもいいでしょう」
鬱陶しそうにしながらも、返事はしっかり返ってきた。
告白した相手からこんなことされたら、流石に何か反応があるかもと思ったが、玲香ちゃんは微動だにしない。
考えてみれば、これまで好き好きアピールしてきたのに、今になって向こうから告白して来るなんて変な話だ。
うん。間違いない。昨日は委員会で疲れてたし、告白はわたしが見た白昼夢だったのだろう。
危なかった。うっかりされてない告白に返事するところだった。
「みーせて!」
後ろから体重を乗せて抱き着く。
夢だと気づいたら、こっちのものだ。
取り入る相手の好きな物を知っておくのも大切だ。
前回見せてもらった時は、難しそうなミステリー小説だったから、今回はわたしでも読みやすいようなやつだと合わせやすくて嬉しい。
覗き込んでページ端に書いてあるタイトルを確認すると、知っているタイトルが書いてあった。
「あれ、この『キミと青春のミサイル』ってこの前に実写化した恋愛小説だよね? 玲香ちゃんでもこういうの読むんだー!」
「……悪いかしら?」
「ううん、わたしもこういうの好きだから嬉しいなって! 『キミミサ』わたしも読んでみようかな」
「……勝手にしなさい」
こういった恋愛小説を読むのは、何というか意外だ。玲香ちゃんは恋愛なんて興味ないってタイプかと思ってたのに。
「普段から恋愛系の小説も読んでるの? 玲香ちゃんミステリー小説ばっかり読んでるイメージだったから、意外かも」
「……あなたが告白を受けてくれた時の為に勉強しているだけよ」
「へえ、わたしが告白を……。告白!?」
やっぱり夢じゃなかった!?
バッと弾かれたように玲香ちゃんの背中から離れる。自然と声が大きくなっていてクラスメイトたちの注目を集めてしまう。
「……声が大きいわ」
「ご、ごめん」
「……それに、告白されたことをもう忘れたのかしら?」
玲香ちゃんが、周囲を気にしながら小声で言う。
告白の話題となると、流石に恥ずかしいのだろうか。
「その、現実味が無さすぎて夢かな~って……」
「…………はぁ?」
驚いたような呆れたような、珍しく感情の乗った声だった。
「だって女の子同士だしっ……」
「……あなたがそれを言うの?」
ぐうの音も出ない。
わたしが性別のことをとやかく言うのは、確かにおかしい。
「……それとも、何か私の告白を受けられない事情でもあるのかしら」
「う、それは……」
わたしとしては今までの関係を維持したいけど、どう断っても玲香ちゃんとの関係に亀裂が走る気しかしない。
言い淀んでいると、ガラッと教室の扉が開いて、先生が入ってきた。時計はすでに朝のホームルームの時間を指している。
助かった……!
「先生来ちゃったね。じゃあ、また!」
「待って」
助かってなかった……!
自席に戻ろうとしたところで、手首を掴まれる。
昨日と同じだ。玲香ちゃんの手はイメージと違ってすごく暖かい。
鼻先がくっついてしまいそうなくらい、顔を近づけられる。
同性とはいえ、ここまで出来の良い顔がすぐそばにあるとドキッとしてしまう。
「……私も真剣だから……。それだけ覚えておいてほしい」
誰にも聞こえないように、そっと小さな声で囁かれる。
「う、うん」
ほとんど生返事だったけれど、玲香ちゃんは小さく頷いて手首を離した。
玲香ちゃんが何を考えてるか分からない。
本当にわたしのことが好きなのか。
特別な人間だからこその気まぐれなのか。
席についてから、耳元に残るこそばゆい感覚に気づいて鼓動が早まってくる。
数学の教科書開くのも忘れて、頬杖をついたまま、小さくため息を吐いた。
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