第5話 モンスターとの遭遇

「……でね、猫の世界の王子様は、『私たちは猫缶が無いと食糧危機に陥ってしまう』と私に言ってきたもんだから、私は大至急工場の建設を始めたの」

「うんうん!」

「なんだけど、建築素材がなかなか集まらなくて、尚且つ人手も……」


 私は自分の偉業を語るように、翡翠ちゃんに猫の世界の話を聞かせる。

 勿論、そんな世界に行ったわけではない、だが、子どもたちにそういう話を聞かせると、物凄く喜んでくれるんだ。

 彼らは恐らく、私の話が嘘だと気づいてはいるだろう、だが、面白そうに聞いてくれる。

 大人が聞いて馬鹿馬鹿しいと思う話でも、子どもたちは想像力を膨らませて聞いてくれる。

 ほんと、研究室にいる奴らや頭の固い教授や研究者は子どもたちを見習ってほしいくらいだ。


「……というわけで、猫缶造りは失敗しちゃったわけなんだけど、食糧問題は解決できたってわけ!」

「すごい! るり姉! 猫の世界の人たちは救われたんだね! 他のお話は?」

「そうだねぇ……じゃあ次は……」


 私が次の話を始めようとした、その時だった。

 先ほど公園で見た、緑色の怪物が遠くの方にいたのだ。

 私は咄嗟に翡翠ちゃんの前に腕を伸ばし、物陰に隠れる。


「ど、どうしたのるり姉?」


 翡翠ちゃんは困惑している。

 ……今、彼女を怖がらせるわけにはいかない……どうすれば……。


『おっしゃあ! ゴブリンども! 俺っちが相手だ!』


 ……ふと、公園で私たちを助けてくれた謎の猫を思い出す。

 彼……又は彼女は、見ず知らずの私たちを助けるために、命を張って戦っていた。

 命を張って戦う……私が昔から見ているヒーロー作品や異世界小説だって、皆命を張って戦っていた。

 ……あの人……あの猫? かな? まぁとにかく、あの猫のように、私だって戦えるはず!

 こう見えて私は「剣道小学校女子の部で優勝」したことがある! 中学校からやめたけど!!

 正直怖いけど……翡翠ちゃんを守るためだ!

 今、あいつらに対抗できる武器……何かあるかな……?


「るり姉? 何探しているの?」


 ……これだ!

 私はカバンの中からカッターナイフを取り出す。

 教授がたまに段ボール箱一杯のエナジードリンクを持ってくるのだが、それを開けるためのカッターを毎回のように忘れてくる。

 その対策として、私は常にカッターナイフを持ち歩いていた。

 私は刃を立て、物陰へと出た。


「……翡翠ちゃん、ちょっと待てて、すぐ戻るから」

「……え?」


 私はできる……できるぞ! 私は猪飼瑠璃だ!

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