第4話 魔法陣

 ……謎の猫に助けられた私は、下宿先の駄菓子屋に一旦戻ろうと走り出す。

 叔母さんは無事なのだろうか? 携帯を見ても、何の連絡も無い。

 ……とにかく早く戻らないと!


「ママ……どこ?」


 私が駄菓子屋に向かって走っていると、女の子の声が聞こえてきた。

 その声に私は聞き覚えがあった。


翡翠ひすいちゃん! どうしたの!?」

「る、るり姉……」


 いつも駄菓子屋に来てくれる女の子だった。


「お母さんは? どこにいるの?」

「ママ……今日……仕事なの……友達と……遊んで……帰ろうとしたら……地震が起きて……私……怖い……」

「大丈夫、大丈夫だよ!


 翡翠ちゃんは泣きながら何があったか言ってくれた。

 私は彼女をやさしく包み込み、落ち着くように促す。


「とりあえず、お母さんに連絡するために、一旦駄菓子屋まで行こうか、ね?」

「うん……」


 もしかしたら、そのうち避難指示が出るかもしれない。

 それまでの間、駄菓子屋に預かっておこう。

 しかし……なんなんだ? あの怪物にあの建物、それにおかしな猫……。


「るり姉、どうしたの?」

「ううん、なんでもないよ」


 ……いけない、今翡翠ちゃんを不安にさせたらダメだ。

 でも、意味不明な事が起こりすぎて、頭が混乱してる……。

 私が困惑していると、突如、私たちの足元を円状の何かが覆った。


「な、なんだ!?」

「な、なに……?」


 突然の出来事に私たちはさらに困惑する。

 この円状のもの……まさか……異世界小説でよく見る……。


「……魔法陣?」


 ……そんなことを口にしたのも束の間。

 私たちの目線は真っ白に包まれ……意識を失った。



「……え! ……ねえ! ……り姉! ……るり姉!」

「……は!?」


 目が覚めると、翡翠ちゃんが必死の表情で私の体を揺らしていた。


「こ、ここは……?」


 辺りを見渡すと、黒い岩肌に囲まれた空間にいた。

 洞窟だろうか? 鍾乳洞だろうか? とにかく、先ほどの道端ではないことは分かる。


「ねぇ……るり姉……ここ……どこ……? 私……怖いよぉ……」


 翡翠ちゃんは起き上がった私の腕を掴んで覚えている。

 ……正直、私も怖い。

 だが、大人である私が怖がっていては、余計にこの子を怖がらせてしまう。

ここは冷静になろう。


「……大丈夫だよ。お姉ちゃんと一緒に外に出よう! ママも途中で待っているかもしれないし!」

「ほ、本当かなぁ?」

「大丈夫! 私は異世界を冒険してきたんだよ? このくらい行けるよ! だからさ……お姉ちゃんと一緒に頑張ろう?」

「……うん! わかった!」


 ふぅ……とりあえず翡翠ちゃんを安心させることはできた。

 とりあえず立ち止まっても仕方がない、歩かなければ。

 だが……どっち側に出口があるのだろう?


「とりあえず……携帯は繋がるのかな?」


 携帯を起動してみた……が、想像通り圏外……。


「ねぇ、るり姉、どっちに進む?」


 翡翠ちゃんが私の手を引っ張って、急かしてくる。

 うーん、行き止まりでも、進まないよりかはマシか!


「翡翠ちゃん、こっち! こっち行こうか!」

「……うん!」


 私は翡翠ちゃんの手をしっかり掴み、歩き始めた。

 でも、ただ歩き続けると、翡翠ちゃん飽きちゃうかな……そうだ!


「翡翠ちゃん、ただ歩くのもなんだし、最近冒険した猫の世界のお話、聞かせてあげようか?」

「うん! 聞きたい!」

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