夢の竜

亜未田久志

どうしてこうなってしまったのか


 これはとあるおとぎの国の物語。

 吟遊詩人が語ります。

 それは夢に出て来る大きな竜の話。

 夢にしか現れないその竜は。

 夜な夜な人々の眠りを妨げると。

 満足気に去って行くのだ。

 人々は大司教様にその夢の竜を祓ってもらうよう頼んだ。

 しかし大司教様はそんなものは夢幻に過ぎない。

 と聞く耳をもってくれませんでした。

 ある日、大司教様が夢を見ます。

 それはそれは大きな竜の夢です。

 しかし、民から聞いていた話とは違います。

 その竜とは大司教様ご自身だったのです。

 竜の姿になった自分を見て大司教様はひどく満足そうに眠りの奥底へと沈んでいきました。

 そう人々を苦しめる大司教、それこそが夢の竜の正体だったのです。

 それに気づいた大司教は夢の竜は悪い者じゃないと吹聴して回りました。

 しかし、それがいけませんでした。

 一人、勘のいい少年がいたのです。

 その少年はこう大司教に問いました。

 大司教様は竜の夢をご覧になった事はないのですか?

 答えに窮する大司教は少年を檻に閉じ込めました。

 その不条理な扱いに民は怒り。

 反乱が起きます。

 少年はそこまで見越していたのです。

 実に聡い少年だと言えます。

 しかし、火の手が大教会に回って来た時の事。

 少年は檻から逃げられなくなり。

 窮地に立たされます。

 そこに現れたのは他でもない大司教です。

 此処でお前は私と死ぬのだ。

 そう言うと。

 大司教は檻の鍵を壊してしまいました。

 しかし少年はいいわけ一つせず。

 大司教に語り掛けます。

 あなたほどの方がどうしてこんなことが起こると察知できなかったのか、もっと賢いやり方があったはずです。

 その言葉を聞き、大司教は背後の炎の如く顔を真っ赤にします。

 貴様は私が竜のような暴虐だとでも言いたいのか!

 すると少年はそうですと返します。

 そしてその背から翼を生やし頭から光輪を放ちます。

 そう少年は天使だったのです。

 その神々しさを前に大司教は涙し懺悔いいわけをはじめました。

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夢の竜 亜未田久志 @abky-6102

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