神様書店

亜未田久志

ようこそ神様書店へ!


 やあやあ、ようこそいらっしゃいました!

 神様書店へようこそ!

 まずは身体を洗って……次にバターを……。

 ってこれは注文の多い店で申し訳ない。

 なんて冗談ですよ、服を脱ごうとしないでください。

 さて、冗談は置いておいて本題に入りましょう。

 本屋だけに。「本」題に。

 あなたは死にました。

 しかしその魂は我々、神様書店が引き取りました。

 あなたはなかなかに劇的な人生を送っていらっしゃる。

 波乱万丈と言い換えてもいい。

 素晴らしい人生だ。

 だから単刀直入に言います。

 あなたを本にしたい。

 いえ、あなたに自叙伝を書け、などと言っているわけではありません。

 その魂を本にしたい。我々はそう言っているのです。

 あなたの生まれてから死ぬまでを記録した本になってください。

 そうお願いしているのです。

 見て下さい、此処にある全ての本が魂なのです。

 天国にも地獄にも行かず。

 此処で読まれる事を望んだ魂たち。

 それがこの立ち並ぶ本の数々であり。

 この神様書店なのです。

 どうでしょう。

 後世の魂にあなたの人生を読み聞かせるという選択は。

 決して悪くないものと思います。

 もちろん、あなたには天国行きの切符もあります。

 輪廻転生の輪に乗って現世に戻る事も可能です。

 戻ると言ってもそれはもう今、此処にいる「あなた」ではないですが。

 そしてまあ、あまりお勧めしませんが、興味本位で地獄にだって行けます。

 だけど我々はあえて提案したい。

 本になりませんか?

 

 📚


 その話を最初聞かされた時はいまいちピンと来なかった。

 まず自分が死んだことも理解するのに幾許か時間がかかった。

 だけどまあ、そうだな。

 死んだことを受け入れて。

 その提案を、その意味を理解した時。

「悪くないな」

 そう思ってしまった。

 本は昔から好きだった。

 売れない小説家だった俺は。

 しかし、どうだある日、一作だけヒット作を生み出した。

 それ以来、死ぬほど忙しい、いや死んだほど忙しい日々が始まった。

 その来歴が余す事無く本になる。

 それはきっと作家冥利に尽きるというやつだろう。

 俺はその選択を後悔しない。

 その我々を名乗る怪しげな書店員に向かって俺は。

「お願いします」

 と手を差し伸べた。

 すると書店員はにこりと笑って。

「あなたならそう言ってくれると信じてました」

 そう言って俺の手を握った。

 

 📚


 そして俺は本になった。

 田舎に産まれ、都会に出て、バイトと執筆業の掛け持ちをして。

 書いた本が映画化して。それが大ヒットして。

 取材、取材、取材の嵐。

 続編も決定して。

 俺は眠る暇もなかった。

 そんなワーカーホリックな人生が本になった。

 これ面白いのか? と疑問に思ったが。

 手に取って読む天国地獄転生待ちエトセトラに住む魂たちは俺をこぞって読んだ。

 俺はベストセラーコーナーに平積みにされ。

 神様書店本屋大賞を受賞した。

 正直、知る人ぞ知る名作、くらいのポジションが良かったなぁと苦笑しながら。

 俺は今日もまた平積みにされている。

 まあこんな余生……じゃないか。

 あの世も悪くないかな。

 なんて思いながら。

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