29

「ふふ、」


 生徒会室で仕事をこなしながらここ最近に想いを馳せると、思わず笑みがこぼれる。気分も良い。そんな毎日を過ごしていた。


 あの日から湖麦さんはちょくちょく生徒会室へ遊びに来てくれるようになった。そこでたわいもない話をして、珈夜さんも話に加わって、たまに紅蓮さんや緑さんも加わる……


 前よりも穏やかな空気が生徒会室を満たしていたのだ。




 さて私はというと、湖麦さんが来ない時間帯に校内の見回りを日々のルーティンとして組み込み、その分で溜まった仕事は家に持ち帰り、寝られない間の暇つぶしの一つとして位置付けた。もちろん、家の仕事も然り。


 ああ、でも前より辛さはない。生徒会の皆さんとは以前よりも雑談が出来るようになって、ここに来てくれる湖麦さんとも笑いあって、校内を見回ると皆さん笑顔で挨拶してくれるから──まぁ、何度か諍いが起こったのを取り成したこともあったが──。




「……あれ?」


 ……私、辛かった? 今前より辛さはないと言ったが……


 自分でも分からない気持ちの変化に戸惑う。あれ、あれ、と目を左右に揺らして動揺を隠せず。


「辛い、って……なんでしょう。」

「どうされたんですか、シスイ様。」


 動揺から思わず呟いてしまった音を拾った珈夜さんはそう聞き返した。


 分からないことは聞いてみると良い、とは誰の言葉だったか。それすらも分からないが、聞いてみるだけタダだと言葉にしてみることにした。


 もしかしたら口にすることで、頭の中が整理されるかもしれない、と希望も持って。


「あ、の……最近、前より辛くないな、と何故か思ったんです。今まで辛いとか感じたことは無かったはずなのですが……」

「へぇ、生徒会長サマはようやっと自覚し始めたか。」


 答えは珈夜さんではなく、意外にも紅蓮さんから出てきた。


 はて、ようやく自覚、とは……? 何のことやらと首を傾げる。


 ……はっ、もしかして私は無自覚に何かしてしまったのだろうか! 誰か人を傷つけていなければ良いのだが……どうだろう。


「自覚、とは?」

「シスイ様が頑張りすぎていることにです!」

「頑張りすぎて、ですか? 私が?」


 私は頑張りすぎてなんていないのに? やっぱり分からない。完璧を目指しているはずなのに、何故か最近分からないことだらけだ。それも答えもないことばかりで。頭が痛くなりそうだ。


「珈夜、それでは多分生徒会長サマには通じないぞ。そうだな、敢えて言うなら……今まで自分を過剰に傷つけてきていたことを自覚し始めた、と言うのはどうだろうか。」

「自分を過剰に傷つける……?」


 傷つけることなんて一番出来ないことなのに? だって傷がついたらそれこそ完璧ではないのだから。それなら違うこと? でも傷つけるだなんてこと出来ないし……?


 もう少し聞きたいと目で紅蓮さんに訴えることにした。

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